どんな味だった?古代エジプトのビールを再現

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古代エジプトで飲まれていたビールは、クリアな味わいの現代のものとは違い、濃くてどろどろした液体でした。

ストローでビールを飲むエジプト人男性 アマルナで出土 新博物館 (ベルリン)
ストローでビールを飲むエジプト人男性 アマルナで出土 新博物館 (ベルリン)

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目次

古代エジプトのビールは「どろどろ」していた 

ストローでビールを飲む男性の図

当時のビールには殻やほこりなどの不純物が浮いていたため、飲むときは漉すためにストローを使用していました。

ストローでビールを飲むエジプト人男性 アマルナで出土 新博物館 (ベルリン)
ストローでビールを飲むエジプト人男性 アマルナで出土 新博物館 (ベルリン)

引用元:ストローでビールを飲む男性 Vassil CC-Zero

エジプト新王国(紀元前1570年頃-紀元前1070年頃)の時代の墓碑。

そこに描かれているのは、ストローでビールを飲んでいる男性の図。

古代エジプトの遺跡からは、漉し器に直角に設置された陶製のストローが出土している。アクエンアテンがファラオだった時代の新王国(紀元前1350年頃)の首都アマルナで出土した墓碑には、セム人のようにひげを生やしたエジプト人の男性が召使いの少年に補助されながら、ストローでビールを飲んでいる場面が描かれている。少年が手に持っているカップは、青スイレンの抽出液など、特別な原料や幻覚剤を入れるための容器だろう。

『酒の起源 最古のワイン、ビール、アルコール飲料を探す旅』. パトリック・E・マクガヴァン(著). 藤原多伽夫(訳). 白揚社. p.386.
ツタンカーメンの父アクエンアテン(アメンホテプ4世) 紀元前1362年?-紀元前1333年? エジプト考古学博物館蔵
ツタンカーメンの父アクエンアテン(アメンホテプ4世) 紀元前1362年?-紀元前1333年? エジプト考古学博物館蔵

引用元:ツタンカーメンの父アクエンアテン(アメンホテプ4世) CC-BY-SA-2.5

醸造時は同じ容器を繰り返し使用していたそうです。

醸造者たちは常に自前の「麦芽汁用おけ」を持ち歩いていたとか。

同じ容器を繰り返し使うと、容器のひびや裂け目のなかに酵母培養液が残り、不確実な自然の酵母菌に依存しなくても発酵がうまく行く、というわけです。(参考:『世界を変えた6つの飲み物 ビール、ワイン、蒸留酒、コーヒー、紅茶、コーラが語るもうひとつの歴史』. p.24.)

その後アルコール濃度を強める工夫をしたり、 風味の異なるビールを作り出しました。

ビールの透明度を高めることも行われていたようで、

 また、古代エジプト人は特にビールの清澄化に苦心し、清澄材として赤色粘土の粉末を使用していました。このことは、洗練された味づくりの点で大変興味深いことです。清澄化することで澱が取り除かれ、液体としての飲みやすさの点で意味があったのかもしれませんが、香味の点でもすっきりした洗練されたものであったと推測されます。

 ビールのバリエーションも多く、発酵後すぐに飲むビールだけでなく、特別の壺に入れて長期熟成させたビール、弱アルコール、強アルコールのビールなどもあったと言います。その他、古代バビロニアのビールと同様、種々の香り付けのハーブやスパイスが添加されていたようで、ナツメヤシ、蜂蜜、ベニバナ、ルビナスなどを使うことによって香味の変化やアクセントがつけられ、風味も各段に多様化し、人々の嗜好を満たしていたのでしょう。

『ビールの科学 麦とホップが生み出すおいしさの秘密』. 渡淳二(監修). サッポロビール 価値創造フロンティア研究所(編). p.43.

古代エジプトのビールの種類は、とてもバラエティ豊かだったようですね。

これが絶対美味しくないわけがない。

『酒の起源』では、このようなビールが挙げられています。

黒いビール、甘いビール、鉄のビール(赤い色がつけられていたのかもしれない)、「すっぱくないビール」、歯茎の健康を保つためにセロリといっしょに飲むビール、「不死のビール」、デーツのビール、ヘス(ハーブや果実、樹脂で特別に風味づけされていたとみられるビール)などがある。

『酒の起源 最古のワイン、ビール、アルコール飲料を探す旅』. パトリック・E・マクガヴァン(著). 藤原多伽夫(訳). 白揚社. p.385.

後世のエジプトの記録では少なくとも17種類のビールについての記述があり、それぞれに名前も付いていました。

「美と善」「無上」「喜びをもたらすもの」「食事の伴(とも)」「豊か」「発酵飲料」 。

現代でも十分通用する名前ですよね。

もう飲んでみたくて目眩がしそうです。

『世界を変えた6つの飲み物 ビール、ワイン、蒸留酒、コーヒー、紅茶、コーラが語るもうひとつの歴史』でも、

また、宗教的行事に用いられたビールにも特別な名前がついていた。紀元前三〇〇〇~二〇〇〇年代のメソポタミアの記録にも同様に、フレッシュ・ビール、ダーク・ビール、ストロング・ビール、レッド・ブラウン・ビール、ライト・ビール、プレスト・ビールなど、二〇種以上のビールが記載されている。ちなみにレッド・ブラウン・ビールは麦芽の量を多くして作るダーク・ビールで、プレスト・ビールは原料の穀物が少なく、アルコールの弱い水っぽいビールである。

トム・スタンデージ(著). 新井崇嗣(訳). 2007-3-20. 『世界を変えた6つの飲み物 ビール、ワイン、蒸留酒、コーヒー、紅茶、コーラが語るもうひとつの歴史』. インターシフト. pp.24.-25.

女神ハトホルの「酒飲みの祭り」

『酒の起源 最古のワイン、ビール、アルコール飲料を探す旅』では、ハトホル神と交流すべく酒を飲み酩酊状態になる「酒飲みの祭り」について、

「大酒飲みの愛人」とも呼ばれるエジプトの女神ハトホルは、シュメールでいえばビールの女神ニンカシのようなものだった。ハトホルは、「ビールをつくる」下級の女神メンケトと近い関係にあった。エジプト中部のデンデラに位置するハトホル神殿で行われるハトホルをたたえる祭りは、「大酒飲みのハトホル」というふさわしい呼称をもち、ハトホルが獅子頭の女神セクメトに化けて暴れ回り、反抗的な人類を滅亡させようとしたときの物語を再現する。そのとき太陽神ラーが氾濫していた大地を赤いビールで満たすと、それを見たハトホルはみずからの目的を達成したと思い込み、暴れ回るのをやめる。そしてビールを飲みすぎて、人類滅亡の任務を忘れてしまうのだ。デンデラで毎年行われるこの祭りは夏にナイル川が氾濫する時期と重なり、スーダンのアトバラ川から鉄分の多い赤土が流れ込むので、川の水は赤いビールのように見える。祭りでワインとビールを両方飲み、音楽やダンスで祝福することによって、人々はハトホルが穏やかな猫の女神バステトに化ける体験を共有するのだ。

『酒の起源 最古のワイン、ビール、アルコール飲料を探す旅』. p.384.
ハトホル像 紀元前1390年-紀元前1352年 大英博物館蔵
ハトホル像 紀元前1390年-紀元前1352年 大英博物館蔵

引用元:ハトホル  Rama CC-BY-SA-2.0-FR

セクメトの像 ウィーン美術史博物館蔵
セクメトの像 ウィーン美術史博物館蔵

引用元:セクメトの像 Captmondo CC-BY-SA-3.0

神話では、人間が自分に反抗的になったと感じた太陽神ラーは、ハトホルを地上に送り、人類を抹殺しようとします。

獰猛な雌ライオンに変身して人間を襲い、殺戮するハトホル。

その残忍さに人類抹殺計画を思い直すラー。

もし本当に全人類を抹殺してしまっては、自分を崇めるものがいなくなってしまうのです。

そこで、ラーは大量の赤いビールを用意させました。

ハトホルはそれを人間の血だと思い込み、飲み始めます。

酔っ払ったハトホルはすっかり任務を忘れて眠ってしまいました。

そのおかげで人類は全滅を免れたのです。

バステト 紀元前664年-紀元前30年頃 メトロポリタン美術館蔵
バステト 紀元前664年-紀元前30年頃 メトロポリタン美術館蔵

引用元:バステト CC-Zero

猫の頭部を持つ女神であるバステトは、セクメトやハトホルと同一視されました。

しかしライオンの獰猛さはなく、家猫の性格を持つ「穏やかな神」です。

ハトホルと同じように、シストルムと呼ばれる楽器(今で言うガラガラ)を「持ち物」としています。

再現された古代エジプトのビール

古代のエジプト人は、「甘く」「泡だたない」「どろどろした」ビールを飲んでいました。

栄養価も高く、正に滋養に富んだ「液体のパン」とも言えるようなものだったそうです。

実際、どんな感じだったのでしょうか。

スコットランドのビール会社スコティッシュ&ニューカッスルさんが古代エジプトのビールを再現しました。

ケンブリッジ大学のバリー・ケンプによる発掘調査と、マクドナルド考古学研究所のデルウェン・サミュエルによる古植物学的な分析に基づいて古代エジプトのビールを再現し、「ツタンカーメンの酒」「ネフェルティティの酒」といった名前で1本100ドルで販売し、あっという間に売り切った。サミュエルの発見によれば、ビールの原料はエンマ―小麦と大麦の麦芽、糊化した穀粒で、パンが使われた証拠は見つからなかったという。出来上がったビールはアルコール度数が6%で、やや濁った黄金色をしていて、いくらか甘味があり、果実の香りがした。

『酒の起源 最古のワイン、ビール、アルコール飲料を探す旅』. p.390.

the drinks business様の「世界で最も高価な10本」の記事(2014年3月)で、「ツタンカーメンのエール」が紹介されています。

やや濁った黄金色とありましたが、この画像だとちょっとわかりにくいですね。

また、日本のキリンビール様でも、古王国時代(紀元前2686年-紀元前2160年頃)と、新王国時代(紀元前1550年-紀元前1069年頃)の壁画を元に再現しています。

まさに神企画です。

私たちはビールといえば、黄金色の液体、白い泡を想像する。しかし、再現したビールは濁りがあり、現代のビールのようには泡立たない。古王国時代のビールは白ワインのような酸味と適度な苦みがあり、 しまった味。新王国時代のビールは酸味が強く濃厚で、ヨーグルトのような濁り酒だった。

『図説 ビール』. キリンビール株式会社. ふくろうの本. p.26.

「甘く」「どろどろ」との言葉からまず甘酒、あるいはヨーグルトを連想してしまいますが、『図説 ビール』のp.26ではその姿を見ることができます。

下記のキリンビール大学のサイトにも出ていますよ~。

主な参考文献
  • トム・スタンデージ(著). 新井崇嗣(訳). 2007-3-20. 『世界を変えた6つの飲み物 ビール、ワイン、蒸留酒、コーヒー、紅茶、コーラが語るもうひとつの歴史』. インターシフト.
  • 『図説 ビール』. キリンビール株式会社 ふくろうの本.
  • パトリック・E・マクガヴァン(著). 藤原多伽夫(訳). 『酒の起源 最古のワイン、ビール、アルコール飲料を探す旅』. 白揚社.
  • 渡淳二(監修). サッポロビール 価値創造フロンティア研究所(編). 『ビールの科学 麦とホップが生み出すおいしさの秘密』.
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コメント

コメント一覧 (4件)

  • それはいいですね!!
    クリアな味わい、きめ細かい滑らかな泡、キレ、コク、どうコメントされるのか、興味があります。
    コメント有難うございました。

  • 当時のエジプトの人に、現代のビールを飲んでみてもらいたいですね🍺

  • flowerphoto様
    今日も読んでいただいて有難うございます。
    古代エジプトの頃にはもう「ビール」というものが存在していて、人々はそれを飲むのが好きで、酔っ払うひともいれば諫めるひともいる…なんだかとても不思議な気がしますよね。種類も意外と多く、美味しくするための工夫も見られます。
    見た感じや味は違ってもしっかり現代に残っているなんて、スゴイと思います。

  • こんばんは。古代エジプトで飲まれていたビールはとても奥が深いですね。
    実際に、博物館に残されている作品の中に描かれていて、語り継がれて今日に至るというのも何だか感慨深いです。

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