オーストリア出身の画家グスタフ・クリムトの作品『ベートーヴェン・フリーズ』が本の帯になっています。帯の下は、金色の表紙に白抜き文字のタイトルというシンプルなデザインです。
引用元:『ベートーヴェン・フリーズ』
『色で読み解く名画の歴史』
色彩や装飾文様に関する本を出しておられる城一夫氏と、色彩の専門家とも言える橋本実千代氏による書籍。
前書きにもあるように、お二人とも「絵画」を専門になさっているのではありません。この本は、お二人の、絵画の歴史を「色彩」で読み解く試みの成果のひとつとのこと。
構図やモチーフで読み解くという本はよく見かけますが、「色彩で」というのは、この城氏の著書くらい?
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色で読み解く名画の歴史- 城 一夫・橋本実千代(著)
- 出版社 : パイインターナショナル
- 発売日 : 2013/1/22
- 単行本(ソフトカバー) : 207ページ
- ISBN-10 : 4756243142
- ISBN-13 : 978-4756243140
この本の目次
- まえがき
- 序論 色彩絵画の系譜
- 掲載作家 年表一覧表
- 凡例
- 西洋の絵画
- 日本の絵画
p.4~p.19の序論はとても勉強になります。
レイアウト的には読みにくかったのですが、面白いのでもう少し詳しく知りたいと思える内容でした。
一番の推しである序論はこのようになります。
- (Ⅰ)ルネサンス以前の色彩絵画
- 有史以前の装飾壁画
- エジプト壁画
- クレタの壁画
- ギリシャの「テトラクロマティズム」
- ローマの装飾壁画
- ビザンティン帝国の金色モザイク
- (Ⅱ)ルネサンス以降
- ルネサンスの意味
- ルネサンスの曙(12~13世紀)
- 盛期ルネサンス(15~16世紀)
- 17世紀バロックの光と闇
- 18世紀の雅宴画の色彩
- (Ⅲ)近代絵画の色彩
- ロマン派-色彩の発見
- 写実主義の色彩-影の発見
- 色彩革命としての印象主義
- 新印象主義にみる点描と形の復権への試み
- 後期印象主義の革新的な試み
- 象徴主義の画家のそれぞれの色彩
- (Ⅳ)現代の色彩-色彩の自立と主張
- ピカソの青 ピカソのローズ
- 「野獣派」の原色表現
- 立体派による色彩の消失
- オルフィスム(色彩キュビスム)
- ドイツ表現主義の多彩な色彩絵画
- 新造形主義と究極の3原色
- マレーヴィチの「絶対主義」-白の上の白
- ジャンヌレの「純粋主義」-パステルカラー
- エコール・ド・パリのそれぞれの色
- シュルレアリスムと色彩
- ポップアート-色彩の復活
- オプティカル・アート
- ヌーヴォー・レアリスムの試み-絵画の非物質化と色彩の精神性
- 抽象表現主義-色彩の自立
「金色モザイク」「ロマン派」「ピカソの青 ピカソのローズ」とか、こんなに盛り込まれているのに、20ページも割かれていない!
要点だけを掴むには良いかもしれませんが、いやいや、それではもったいない。
ぜひ新書あたりで詳細に書かれた一冊を読んでみたいです。
この箇所だけでも本書を読む価値があると思います。
この本を購入した理由「色彩一覧」
私は「色彩一覧」(p.23 以降)を見たくて書籍を購入しました。
興味深い名称の色名が並ぶなか、ベラスケス・レッド、デュフィ・ローズ、ピカソ・ブルー、ヴェロネーゼ・グリーン、フラゴナール・ピンクといった、画家名と画家の作品に特徴的な色の名前が特に目を引きます。
これを見て、何となく「あ、あの絵の色の感じ?」と想像するのは実に楽しいものです。
絵がお好きな方なら色名を見て「ああ、なるほど」と思われる方もいらっしゃると思いますし、「私のなかではこの巨匠は「レッド」より「ブルー」なんだけどね」と思われる方もいらっしゃると思います。
それもまた楽しいヽ(^o^)丿。
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この本を読むと「色彩」に対する知識が増える
あなたのお気に入りの絵画がこの本で解説されているか、まずはチェックされたいことでしょう。
私と同じように、「自分の好きなこの絵は、色についてどのように解説されているんだろうか」と大いに気になるところだと思います。
挙げられているのは、
- レオナルド・ダ・ヴィンチ
- ラファエロ
- ミケランジェロ
- ルーベンス
- フラ・アンジェリコ
- ヤン・ファン・エイク
- カラヴァッジォ
- レンブラント
- ホイッスラー
- クリムト
- マリー・ローランサン
- シャガール
- ミロ
- 俵屋宗達
- 横山大観、…
実際にはもっとたくさん挙げられていますので、ご存知の絵画、気になっていた作品が複数見つかるのでは。
絵画が専門ではないと著者の方は仰っていますが、色彩(その歴史や効果)を研究されている「色彩の専門家」の見方は実に興味深いものです。
時代によって流行の色もありましょう。色が持つ意味も国によって違ったりします。
色見本を眺めるだけでも楽しいですが、色彩の分野にあまり馴染みが無いという方も、序論を読んで「そういう見方(そういう歴史)(そういう色の効果)etc. があるんだな」と知ることで、この本に載っている絵画の実物を観る機会に恵まれた時、周囲とはまたひと味違う見方ができるのではないかなと思います。
美術館を一緒に訪れる友人、パートナーにちょっと差をつけてしまうかもw (*^^)v
また、存在するすべての色名を全部まる暗記、などというのは不可能かもしれませんが、
「今日の服はピカソ・ブルーにしよう」
「そのフラゴナール・ピンクのリボン、素敵だね」
「お弁当のトマトがティツイアーノ・レッド」
等々意識することで、日常生活の中で、色に対する感性を磨くことはできそうです。
ちょっと残念な点
色見本の後、本書を開くと基本的には左側に解説、右側に対象の絵画が掲載されています。
まず、電子書籍が出ていないのが何より残念です。
と言うのも、この解説がですね、小さめな字でギッシリという感じなんです。
改行も少ないので読みづらく、自分の知りたい情報がどこにあるのか探すのに苦労します。
p.32 以降多くの名画が登場しますが、索引が無く、実際に手に取って本を開くまで、どの画家のどの絵画が載っているのかわかりません。
せっかく印刷された色の状態も良いのだから、「名画○選」等として索引をわかりやすくしてくださるともっと嬉しいなと思います。
私は電子書籍より断然紙の本が好きですが、こういう場合には「求む電子書籍化!!」と心から願います。
本書は洋画だけではなく、日本の絵画の色彩についても言及されています。
しかし洋画の掲載量に対し、「え、これだけ?」感が拭えません。
これに関しては著者からの断りもありますので、仕方がないなと思います。
でもなんかもったいない。中途半端というより、物足りない印象で終わってしまいます。もったいない。
索引を付けて電子書籍にして、もっとがっつり日本画のスペースも取って欲しいな。
(そうすると本の価格が上がってしまうか…(/ω\))
妙に漫画チックなイラストが無い分すっきりしている点はすごく良いです。
色彩一覧も良いですが、序論も良いですよ。勉強になります。
本書で紹介されている巨匠と絵画と色
結構充実した品揃え?の巨匠たちの作品から、三「色」ご紹介します。
エンパイア・イエロー
引用元:『読書する娘』
「巨匠名+色」名は『ぶらんこ』に使われているような「フラゴナール・ピンク」が挙げられていますが、本書に掲載されているのはこちらの『読書する娘』。
茶色い背景に、鮮やかに浮かび上がる黄色いドレス、薔薇色の頬、ピンクがかった柔らかそうなクッション。
良家の子女らしき女性が着るドレスの黄色は「エンパイア・イエロー」となっています。
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ドレスの黄色と背景のブラウンが印象的なフラゴナールの『読書する娘』
引用元:『ぶらんこ』
ピンクのドレスが可愛らしいですね。
この色が、世の中の苦労とは無縁な、享楽的な貴族文化を象徴しているような気がします。
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ロココ貴婦人のミュールとジャン・オノレ・フラゴナールの『ぶらんこ』
スパニッシュ・ブラック
引用元:『ラス・メニーナス』
ベラスケスの頁ではスパニッシュ・ブラック、イングランド宮廷の首席画家アントニー・ヴァン・ダイクにちなむヴァン・ダイク・ブラウンが紹介されています。
『教皇インノケンティウス10世』のベラスケス・レッドも捨て難いですが、掲載されていません。残念。
引用元:『教皇インノケンティウス10世』
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ベラスケスによる肖像画『フアン・デ・パレーハ』『フランチェスコ1世・デステ』
フェルメール・ブルー
引用元:『牛乳を注ぐ女』
高価なラピスラズリを使用し、「青と黄」「青と白」の組み合わせが記憶に残るフェルメールの作品は『牛乳を注ぐ女』が挙げられています。
引用元:『真珠の耳飾りの少女』
ラピスラズリを使った絵の具がどれだけ高価かというと、通常の絵の具の100倍だったとか…。
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ベラスケス、フェルメールはバロックの、フラゴナールはロココの画家です
画家の名が付けられた色に惹かれる私の話
私が「画家の名が付けられた色」名に対し、非常に惹かれるのは昔からのようです。
バブル期のことですが、当時は使いきれない程のメイク用品を持っていました(・∀・)。
ボルケーゼは憧れのブランドのひとつで、口紅なんか本当は全色手に入れたいくらいでしたね。
口紅には、ルネサンスの巨匠たちの名前が付いていました。
覚えているのは、ベリーニとティツィアーノ、どちらにしようかすっごく迷ったことです。
どちらの色がいいかというより、どちらの名前の方がより惹かれるか(どちらの絵が好きか)でした。
さんざん迷った末、画家ベリーニの名前を冠した口紅を購入。
でも買ったはいいけど、結局勿体無くて使えませんでした。
捨てられないままになっていた口紅を、2015年末の断捨離の際、発掘。
まだ使えそうな気がしましたが、もちろん消費期限は完全に過ぎています。
処分する前に記念写メ撮りました。お目汚し失礼致しました。
引用元:『神々の饗宴』
ベリーニが手掛け、ティツィアーノが手を加えた傑作『神々の饗宴』です。
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