優雅な衣装を身に着けた貴族男女の絵で知られるジャン=フランソワ・ド・トロワ。フォンテーヌブロー宮の、ルイ15世の食堂を飾った『狩の食事』をどうぞ。
『狩の食事』( Un Déjeuner de chasse ) 1737年 ジャン=フランソワ・ド・トロワ
引用元:『狩の食事』
シュリー翼919展示室(2024年7月現在展示されていません) , RF 1990 18 Un Déjeuner de chasse
画面の中にはいろんなひとがいますね。
美しいドレス、美しい刺繍の施された上着に身を包んだ貴族たち。
食事をする人、談笑する人、給仕人、奥には馬車や馬…。
貴族の楽しみである狩りの間のひとコマです。
赤い上着の男性が料理を切り分け、中央では皿が手渡されています。
右手前の男女はグラスを手に、何やら会話していますね。
ちょっと拡大してみましょう。
引用元:『狩の食事』
引用元:『狩の食事』
くだけた雰囲気ですね。何を食べているか気になります。
犬がテーブルの下から「ぬっ」と姿を現します。
こちらは貴婦人の足元でガジガジ。
給仕人たち、と給仕される貴族男性。
引用元:『狩の食事』
貴族男性は金糸の刺繍がある上着にヴェスト、大きく折り返されて刺繍を見せている袖、後ろで束ねた髪を袋に入れるというヘアスタイルです。
下にメトロポリタン美術館所蔵のバッグウィッグを掲載しましたが、トロワの絵の男性たちのリボンは画像のものより大き目です。
引用元:バッグウィッグ
18世紀ロココ期の男性ファッションに関する記事 ウィリアム・ホガース 18世紀の『当世風の結婚』(ファッションで見る『第一場』、室内装飾で見る『第二場』)
関連記事 ド・トロワの『愛の告白』で見るロココの男性服「アビ・ア・ラ・フランセーズ」
『狩の食事』が掲載されています。このシリーズ、レイアウトがあまり好みではなく、掲載されている各作品についての解説は多くありません。しかしほとんどの作品はカラーで掲載されています。また、こういったジャンルの書籍は大抵ぶ厚く大きいものですが、本書は気軽に手に取りやすい厚さ。食の歴史、美食の歴史をざっくり知るには良いのではないかと。
ルイ15世の食堂を飾るために制作
『狩の食事』の来歴
ド・トロワの『狩の食事』は、フォンテーヌブロー宮の、国王の居室の食堂を飾るために制作されました。
対となる ” Le Cerf aux abois “(湾にいる鹿)という作品がありましたが、”Le Cerf aux abois” の方は失われたようです。(参考:Wikipedia)
本作は1748年に新しい食堂に設置し直された後、1785年にその場所から移動。
しばらく所在が不明だったようですが、クリスティーズなど様々な手を経て、1990年ロートシルト家の相続税支払いのためにルーヴル美術館に寄贈されました。
『狩の食事』の準備スケッチ( Déjeuner près d’une ferme (Breakfast by a Farm) 1737年) ウォレス・コレクション蔵
ウォレス・コレクションのタイトルは『 Déjeuner près d’une ferme 』。
賑やかな『狩の食事』と違って、スケッチの方は人が少ないですね。
ルイ15世の肖像( Portrait de Louis XV (1710-1774); roi de France. ) 1748年 モーリス・カンタン・ド・ラ・トゥール ルーヴル美術館蔵
引用元:ルイ15世の肖像
, INV 27615, Recto ※グラフィックアーツ相談室で予約して閲覧可 Portrait de Louis XV (1710-1774); roi de France.
『狩猟の合間の昼食』( Halte de chasse ) 1737年 シャルル=アンドレ・ヴァン・ロー ルーヴル美術館蔵
引用元:『狩猟の合間の昼食』
シュリー翼919展示室 , INV 6279 ; LP 6742 Halte de chasse
同じ主題で、やはりフォンテーヌブロー宮の食堂のために描かれた『狩猟の合間の昼食』。
ド・トロワの作品は、宮廷内からそのまま運ばれたような食卓や椅子、食器、テーブルクロスの宴席風景ですが、ヴァン・ローの絵では地面に布を敷いた「ピクニック」風景ですね。
料理が豪華です。(すぐ食べものに目が行きます)
これらの絵画は「雅宴画」と呼ばれます。みやびですよね。
当時の貴族の姿をありのまま表したというより、「こうありたい」という理想の風景を描いたものです。
多くの場合、場所も人物も特定のものではありません。
フォンテーヌブロー宮のために描かれたふたつの作品は、今またルーヴル美術館の同じ展示室に展示されています。(2022年現在)
ルイ15世の寵姫ポンパドゥール侯爵夫人の肖像 ルーヴル美術館にある『ポンパドゥール侯爵夫人』の肖像(ブーシェ作)
ルイ15世の寵姫だったデュ・バリー夫人による注文 デュ・バリー夫人による注文『壊れた甕』(グルーズ作)
ジャン=フランソワ・ド・トロワ( Jean François de Troy, 1679年1月27日 – 1752年1月26日)
引用元:自画像
フランス、パリ生まれ。ヴェルサイユ宮殿やフォンテーヌブロー宮殿の装飾を手がけました。
イタリア、ローマに滞在し、現地のフランス・アカデミーの校長を務めました。
『牡蠣の昼食』( Le Déjeuner d’huîtres ) 1735年 ジャン=フランソワ・ド・トロワ コンデ美術館蔵
引用元:『牡蠣の昼食』
この作品もルイ15世の注文を受けて描かれました。
かつてはヴェルサイユ宮殿の、小アパルトマンの食堂に飾られていました。現在はコンデ美術館に在ります。
牡蠣を食べながら談笑する貴族たち。
そのうち数人の視線が空中の一点に集中しています。
そこには飛ばされたコルク栓が…。
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本作のスケッチはルーヴル美術館の収蔵品
シュリー翼921展示室 , RF 2011 55 『牡蠣の昼食』スケッチ( Le Déjeuner d’huîtres. Esquisse. )
ド・トロワの絵画
『愛の告白』( Die Liebeserklärung ) 1731年 ジャン=フランソワ・ド・トロワ シャルロッテンブルク宮殿、ベルリン
引用元:『愛の告白』
『警告(忠実な家政婦)』( The Alarm, or the Gouvernante Fidèle ) 1723年 ジャン=フランソワ・ド・トロワ ヴィクトリア&アルバート美術館蔵
引用元:『警告(忠実な家政婦)』
どの男女の衣装も優雅で美しい。
『愛の告白』、『警告(忠実な家政婦)』、どちらもその先の展開を見てみたくなりますよね。
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『エステルの失神』( L’Evanouissement d’Esther ) 1737年 ジャン=フランソワ・ド・トロワ ルーヴル美術館蔵
ルーヴル美術館には、『エステル記』のヒロインであるエステルを題材にしたド・トロワの絵画が収蔵されています。
引用元:『エステルの失神』
シュリー翼660展示室 , INV 8216 ; MR 1514 L’Evanouissement d’Esther
モルデカイのハマンに対する軽蔑( Le Dédain de Mardochée envers Aman ) , INV 8214; MR1518
モルデカイの勝利( Le Triomphe de Mardochée ) , INV 8219 ; MR 1515
『エステルとアハシュロスの宴』( Le repas d’Esther et d’Assuérus ) 1739年 ジャン=フランソワ・ド・トロワ ルーヴル美術館蔵
引用元:『エステルとアハシュロスの宴』 Image d’art CC-BY-SA-4.0
, INV 8217 ; MR 1516 Le repas d’Esther et d’Assuérus
エステルの戴冠( Le Couronnement d’Esther ) , INV 8213 ; MR 1513
『エステルの化粧』( La Toilette d’Esther ), INV 8215 ; MR 1512
ハマンの断罪( La Condamnation d’Aman ) , INV 8218; MR1517
『エステルの化粧』タペストリー 18世紀後半 ジャン=フランソワ・ド・トロワ原画 ユダヤ人歴史センター(ニューヨーク)
引用元:『エステルの化粧』タペストリー(ゴブラン) https://www.flickr.com/photos/center_for_jewish_history/3809297382/
- 宮下規久朗(著).2007.『食べる西洋美術史 「最後の晩餐」から読む』.光文社新書.
- アントニー・ローリー(著). 池上俊一(監修). 2007-6-10. 『美食の歴史』. 創元社.
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