優雅な衣装を身に着けた貴族男女の絵で知られるジャン=フランソワ・ド・トロワ。フォンテーヌブロー宮の、ルイ15世の食堂を飾った『狩の食事』をどうぞ。

展示室変更、貸し出し・修復中などで展示されていない場合もあります。美術館のサイトをご確認ください。
『狩の食事』( Un Déjeuner de chasse ) 1737年 ジャン=フランソワ・ド・トロワ
シュリー翼919展示室 , RF 1990 18 Un Déjeuner de chasse

引用元:『狩の食事』
画面の中にはいろんなひとがいますね。
美しいドレス、美しい刺繍の施された上着に身を包んだ貴族たち。
食事をする人、談笑する人、給仕人、奥には馬車や馬…。
貴族の楽しみである狩りの間のひとコマです。
赤い上着の男性が料理を切り分け、中央では皿が手渡されています。
右手前の男女はグラスを手に、何やら会話していますね。
ちょっと拡大してみましょう。

引用元:『狩の食事』

引用元:『狩の食事』
くだけた雰囲気ですね。何を食べているか気になります。
犬がテーブルの下から「ぬっ」と姿を現します。

こちらは貴婦人の足元でガジガジ。

給仕人たち、と給仕される貴族男性。

引用元:『狩の食事』
貴族男性は金糸の刺繍がある上着にヴェスト、大きく折り返されて刺繍を見せている袖、後ろで束ねた髪を袋に入れるというヘアスタイルです。
下に例として、メトロポリタン美術館所蔵の「バッグウィッグ」を掲載しました。

引用元:バッグウィッグ
18世紀ロココ期の男性ファッションに関する記事
ウィリアム・ホガース 18世紀の『当世風の結婚』(ファッションで見る『第一場』、室内装飾で見る『第二場』)
関連記事
ド・トロワの『愛の告白』で見るロココの男性服「アビ・ア・ラ・フランセーズ」
『狩の食事』が掲載されています。このシリーズ、レイアウトがあまり好みではありません。掲載されている各作品についての解説も多くはありませんが、ほとんどの作品はカラーで掲載されています。また、こういったジャンルの書籍は大抵ぶ厚く大きいものですが、本書は気軽に手に取りやすい厚さです。食の歴史、美食の歴史をざっくり知るには良いのではないかと。
ルイ15世の食堂を飾るために制作された『狩の食事』
ド・トロワの『狩の食事』は、フォンテーヌブロー宮の、国王ルイ15世の居室の食堂を飾るために制作されました。
対となる ” Le Cerf aux abois “(湾にいる鹿 / 追い詰められた鹿)という作品がありましたが、”Le Cerf aux abois” は失われたようです。(参考:Wikipedia)
『狩の食事』作は1748年に新しい食堂に設置し直された後、1785年にその場所から移動。
しばらく所在が不明だったようですが、クリスティーズなどを経て、1990年ロートシルト家の相続税支払いのためにルーヴル美術館に寄贈されました。
英国のウォレス・コレクションには、『狩の食事』ほか『死んだ鹿』( Les abois d’un cerf (The Death of a Stag) )の準備スケッチが収蔵されています。
『狩の食事』の準備スケッチ(ウォレス・コレクション)

引用元:A Hunt Breakfast Daderot CC-Zero
Déjeuner près d’une ferme (A Hunt Breakfast) ウォレス・コレクション
『狩の食事』にはまだ犬たちが描かれていませんね。

引用元:The Death of a Stag Daderot CC-Zero
Les abois d’un cerf (The Death of a Stag) ウォレス・コレクション
ルイ15世の肖像
グラフィックアーツ部門 , INV 27615, Recto Portrait de Louis XV (1710-1774); roi de France.

引用元:ルイ15世の肖像
美男で知られた「最愛王」ルイ15世。
この肖像画は、モーリス・カンタン・ド・ラ・トゥールによってパステルで描かれました。
甲冑の光沢が素晴らしい!
『狩猟の合間の昼食』 1737年 シャルル=アンドレ・ヴァン・ロー
シュリー翼919展示室 , INV 6279 ; LP 6742 Halte de chasse

引用元:『狩猟の合間の昼食』
同じ主題で、やはりフォンテーヌブロー宮の食堂のために描かれた『狩猟の合間の昼食』。
ド・トロワの作品は、宮廷内からそのまま運ばれたような食卓や椅子、食器、テーブルクロスの宴席風景ですが、ヴァン・ローの絵では地面に布を敷いたピクニック風景ですね。
料理が豪華です。(すぐ食べものに目が行きます)
これらの絵画は「雅宴画」と呼ばれます。みやびですよね。
当時の貴族の姿をありのまま表したというより、「こうありたい」という理想の風景を描いたものです。
多くの場合、場所も人物も特定のものではありません。
フォンテーヌブロー宮のために描かれた二作品は、今またルーヴル美術館の同じ展示室に展示されています。(2025年現在)
ルイ15世の寵姫ポンパドゥール侯爵夫人の肖像
ルーヴル美術館にある『ポンパドゥール侯爵夫人』の肖像(ブーシェ作)
ルイ15世の寵姫だったデュ・バリー夫人による注文
ジャン=フランソワ・ド・トロワ( Jean François de Troy, 1679年1月27日 – 1752年1月26日)

引用元:自画像
フランス、パリ生まれ。ヴェルサイユ宮殿やフォンテーヌブロー宮殿の装飾を手がけました。
イタリア、ローマに滞在し、現地のフランス・アカデミーの校長を務めています。
『警告(忠実な家政婦)』 1723年 ヴィクトリア&アルバート美術館蔵

引用元:『警告(忠実な家政婦)』
この先の展開が気になる『警告(忠実な家政婦)』。
男性の衣装がまた優雅で美しいんですよねえ。
『愛の告白』 1731年 シャルロッテンブルク宮殿、ベルリン

引用元:『愛の告白』
愛を乞う男性の上着の刺繍が素敵
ド・トロワの『愛の告白』で見るロココの男性服「アビ・ア・ラ・フランセーズ」
『牡蠣の昼食』 1735年 コンデ美術館蔵

引用元:『牡蠣の昼食』
この作品もルイ15世の注文を受けて描かれました。
かつてはヴェルサイユ宮殿の、小アパルトマンの食堂に飾られていました。現在はコンデ美術館に在ります。
牡蠣を食べながら談笑する貴族たち。
そのうち数人の視線が空中の一点に集中しています。
そこには飛ばされたコルク栓が…。
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ルイ15世の食堂を飾った、ジャン=フランソワ・ド・トロワの『牡蠣の昼食』
ルーヴル美術館シュリー翼には『牡蠣の昼食』のスケッチがあります
シュリー翼921展示室 , RF 2011 55 Le Déjeuner d’huîtres. Esquisse.
シュリー翼921展示室にはブーシェとシャルダンの有名絵画が
『マリニー侯爵の肖像』 1737年 ヴェルサイユ宮殿
ヴェルサイユ宮殿 , MNR 52 Portrait de M. Abel-François Poisson de Vandières, marquis de Marigny, directeur Général des Bâtiments du Roi (1727-1781)

引用元:『マリニー侯爵の肖像』
ポンパドゥール夫人の弟、アベル=フランソワ・ポワソン・ド・ヴァンディエール( Abel-François Poisson de Vandières, marquis de Marigny, 1727年 – 1781年)の肖像画。
王室造営物総監を務め、国王ルイ15世からも信頼されていました。
マリニー侯爵( marquis de Marigny )、後にメナール侯爵( marquis de Menars )と呼ばれます。
シュリー翼660展示室『エステルの失神』ほか
ルーヴル美術館には、『エステル記』を題材にしたド・トロワの絵画が収蔵されています。
『エステルの失神』 1737年
シュリー翼660展示室 , INV 8216 ; MR 1514 L’Evanouissement d’Esther

引用元:『エステルの失神』
ゴブラン工房のタペストリーとして制作することを意図した絵画で、「1737年のサロンに出展され、1798年にゴブラン工場のために保管された」そうです。
ルイ15世のコレクション。
『エステルとアハシュエロスの宴』 1739年
, INV 8217 ; MR 1516 Le repas d’Esther et d’Assuérus
2025年4月現在展示されていません

引用元:『エステルとアハシュエロスの宴』 Image d’art CC-BY-SA-4.0
『エステルの失神』を描いたスケッチ
タペストリー『エステルの化粧』( La Toilette d’Esther ) 18世紀後半 ジャン=フランソワ・ド・トロワ原画 ユダヤ人歴史センター、ニューヨーク

引用元:『エステルの化粧』タペストリー(ゴブラン) https://www.flickr.com/photos/center_for_jewish_history/3809297382/
- 宮下規久朗(著).2007.『食べる西洋美術史 「最後の晩餐」から読む』.光文社新書.
- アントニー・ローリー(著). 池上俊一(監修). 2007-6-10. 『美食の歴史』. 創元社.