『昼食(朝食)』に描かれた家族の食事風景。18世紀フランス、ロココ絵画を代表する画家のひとりフランソワ・ブーシェの家族を描いたものではないかとの説があります。

展示室変更、貸し出し・修復中などで展示されていない場合もあります。美術館のサイトをご確認ください。
『昼食(朝食)』( Le Dejeuner ) 1739年 フランソワ・ブーシェ
シュリー翼921展示室(Salle 921Aile Sully, Niveau 2)Le déjeuner. , RF 926

引用元:『昼食(朝食)』
邦題は書籍によって『朝食』または『昼食』となっています。
右の女性の飲み物からは湯気が立っています。
そこから匙ですくって、お人形を持っている女の子に与えようとしているようですね。

この席で描かれている飲み物は「チョコレート」または「コーヒー」となっていることもあります。
「どっちだ( ゚Д゚)」と思いますが、給仕している男性が持っているのはショコラティエール、チョコレート用ポットだと思われます。
『チョコレートの歴史』では、
フランソワ・ブーシェの「朝食」、1739年。典型的なフランスのショコラティエールが描かれている。
ソフィー・D・コウ/ マイケル・D・コウ(著). 樋口幸子(訳). 2007. 『チョコレートの歴史』. 河出書房新社. p.321.
と書かれています。
小さな子どもにあげるなら、コーヒーよりも、滋養に富んだチョコレートでしょうね。
表紙はリオタールの『チョコレートを運ぶ娘』
ショコラティエールとは
下は、ヴィクトリア&アルバート美術館の「ショコラティエール( Chocolatiere )」です。

引用元:チョコレート・ポット Originally uploaded at http://www.britainloveswikipedia.org/ Valerie McGlinchey CC-BY-SA-2.0-UK
ヴィクトリア&アルバート美術館Chocolate pot
優雅ですね。ぽってりしたフォルムのポットも可愛いですが、しゅっとした姿も素敵です。
16世紀の末にスペインに入ってきた時、チョコレートは嗜好品ではなく「薬」、「飲み物」でした
現在のような固形の、食べ物になったのはもっと後のこと。
エキゾチックな異国の飲み物は、スペインから輿入れしてきた王女たちによってフランス宮廷に広まっていきます。
貴婦人たちの間には、朝のベッドでホットチョコレートを飲むことも流行しました。
スペインからフランスに嫁いだふたりの王女
ピエトロ・ロンギの『朝のチョコレート』(1775年-1780年)も掲載
シャルダンの『食前の祈り』( Le Bénédicité )
ルーヴル美術館の同じ展示室には、ほぼ同じ頃に描かれた、シャルダンの『食前の祈り』もあります。
ブーシェの華やかな雰囲気とは違いますよね。

引用元:『食前の祈り』
シュリー翼921展示室(Salle 921Aile Sully, Niveau 2)Le Bénédicité , INV 3202 ; MR 1325
ブーシェの「家族の食事風景」について『フランス絵画の「近代」 シャルダンからマネまで』では、このように。
〈朝食〉ではサーヴィスしているのは付け黒子をした母親は子供とともにテーブルにつき、食卓の上のものも実質的な食物ではなく優美なカップに入った当時の新しい流行のココアである。壁にはロココ様式の鏡や時計が飾られ、棚に当時流行していたシノワズリ(中国趣味)の布袋の像が載っている。〈朝食〉のモデルはブーシェの家族であるといわれているが、たしかにこの絵のファッショナブルな雰囲気はのちの宮廷画家の家庭に似つかわしい。〈食前の祈り〉の落ち着きのある質実さとは対照的である。
鈴木杜幾子(著). 『フランス絵画の「近代」 シャルダンからマネまで』.1995-12-10. 講談社選書メチエ. p.14.
『昼食(朝食)』の室内には、当時流行していた中国趣味の小物が飾られています。
男性の背後の飾り棚に飾られている人形や、画面左のテーブル上の置き物ですね。
家具もロココ期によく見られる、猫脚のようなラインです。

引用元:『昼食(朝食)』

引用元:『昼食(朝食)』

引用元:『昼食(朝食)』
私はカップ類、室内の調度品、家具に超興味あります。
画家の家族
フランソワ・ブーシェ( François Boucher, 1703年9月29日 – 1770年5月30日)
グラフィック・アーツ部門(Département des Arts graphiques)Portrait de François Boucher (1703-1770)., INV 30868, Recto

引用元:フランソワ・ブーシェの肖像
フランス、ロココ期の画家フランソワ・ブーシェ。
フランス国王ルイ15世の寵姫、ポンパドゥール夫人の肖像画でよく知られています。

引用元:『ポンパドゥール侯爵夫人』
シュリー翼614展示室(Salle 614, Aile Sully, Niveau 1) La Marquise de Pompadour (1721-1764). , RF 2142
ブーシェによる肖像画で見る18世紀の衣裳
フランソワ・ブーシェが描く 1756年の『ポンパドゥール夫人』とその衣装
本作のゆったりと食卓を囲む富裕階級に属する人びとは、ブーシェ自身の家族ではないかとも言われています。
『朝食の歴史』(原書房)では、「ブーシェはこの朝食で給仕を務めている。皆の視線は、初めてチョコレートを口にした少女に注がれている。」とあります。
給仕をしているのは、『フランス絵画の「近代」 シャルダンからマネまで』のように「召使」ではないかと思うのですが、ブーシェ自身の面影を投影している可能性もある、かも??
1733年、30歳のブーシェは、絵のモデルを務めていた13歳年下のマリー=ジャンヌ・ビュゾーと結婚しました。
ブーシェ夫妻の三人の子どものうち女児ふたりが成人し、それぞれ画家と結婚しています。
肖像画家アレクサンドル・ロスリンによるブーシェ夫妻の肖像画
スウェーデンで生まれフランスで活躍した、ブーシェの「子分」アレクサンドル・ロスリン(ロスランとも表記 Alexander Roslin )によるブーシェ夫妻の肖像画です。

引用元:『フランソワ・ブーシェの肖像』

ブーシェ夫人はどこかジャン=マルク・ナティエ風(頬紅のせい?)。
マリー=ジャンヌ自身も絵を描き、ミニアチュール制作、エングレービング作家でもありました。
下はブーシェの絵にちなむエッチングです。木のそばで休む二人の少年ですね。

引用元:Two Boys Sleeping Besides a Tree
メトロポリタン美術館Two Boys Sleeping Besides a Tree
(マリー=ジャンヌが亡くなった年は1785年となっており、Wikipediaのもの(1796年)と異なっています)
ブーシェ夫人マリー=ジャンヌ・ビュゾー( Marie-Jeanne Boucher, 1716年1月9日 – 1796年12月30日)
『リナルドとアルミーダ』( Renaud et Armide 1734)
シュリー翼919展示室(Salle 919, Aile Sully, Niveau 2)Renaud et Armide , INV 2720 ; MR 1213

引用元:『リナルドとアルミーダ』
マリー=ジャンヌ・ビュゾーの愛らしい姿が描かれた、『リナルドとアルミーダ』。
マリー=ジャンヌは非常に可愛い女性だったそうです。
画家モーリス・カンタン・ド・ラ・トゥールは1737年に、彼女をモデルにした絵をサロンに出品しています。
モーリス・カンタン・ド・ラ・トゥールはパステル画の名手。こちらもポンパドゥール侯爵夫人の肖像画で有名です。
グラフィック・アーツ部門(Département des Arts graphiques)Portrait en pied de la marquise de Pompadour, INV 27614, Recto

引用元:ポンパドゥール夫人
デュクルーの師がモーリス=カンタン・ド・ラトゥール
輿入れ前のマリー・アントワネットを描いた画家ジョゼフ・デュクルー
『昼間用寝台の上の女性』( A Lady on Her Day Bed 1743)

フリック・コレクションA Lady on Her Day Bed
ソファでくつろぐ女性。このモデルはブーシェ夫人マリー=ジャンヌ・ビュゾー。
履き物はロココ貴婦人の定番・ミュールですね。
壁にかかる飾り棚はやはり中国趣味の小物が。
官能的に横たわる流行の女性は、デイベッドをはじめとする家具や贅沢品に囲まれています。デイベッドは18世紀の発明で、パリの社交界で私邸での社交が流行する中で発展しました。半開きの引き出し、閉じられた本の上に置かれた折り目のない手紙、彼女の下のスツールに散乱した様々な物など、家庭的な雰囲気が見る者の好奇心をそそります。磁器の小像、ティーポット、カップとソーサーが収められた壁掛けキャビネットには、画家の署名が入った手紙が掛けられています。(Google翻訳)
フリック・コレクションA Lady on Her Day Bed
『オダリスク』( L’Odalisque 1745)
シュリー翼921展示室(Salle 921, Aile Sully, Niveau 2)L’Odalisque , RF 2140

引用元:『褐色のオダリスク』
タイトルが『褐色(ブルネット)のオダリスク』となっていることもあります。
褐色(ブルネット)は髪の色から。ブーシェは他にもオダリスクを描いており、そちらの金髪のモデルと区別します。
オダリスクとは、オスマン帝国のスルタン(皇帝、君主)に仕える後宮の女性、女奴隷です。
東洋趣味の小物や宝石が置かれていることで、この絵は異国の「オダリスク」を描いているんですよ、ということですね ( ̄▽ ̄)。
モデルには諸説あり、「ポンパドゥール侯爵夫人では」というものもありますが、「ブーシェ夫人の面影がある」とも。(参考:『お尻とその穴の文化史』 作品社)

引用元:オダリスク頭部
ブーシェの娘たち
『画家の妻ジャンヌ=エリザベート=ヴィクトワール・デエと思われる肖像画』( Portrait présumé de Jeanne-Elisabeth-Victoire Deshays, épouse de l’artiste Vers 1760 – 1763)

引用元:画家の妻ジャンヌ=エリザベート=ヴィクトワール・デエと思われる肖像画
ブーシェの長女ジャンヌ=エリザベート=ヴィクトワール・ブーシェ( Jeanne-Elisabeth-Victoire Boucher )。
1758年にブーシェの弟子、画家ジャン=バティスト・デエ( Jean-Baptiste Henri Deshays de Colleville, 1729年 – 1765年)と結婚します。
『ボードワン夫人の肖像』( Portrait présumé de Marie-Emilie Baudouin, fille du peintre vers 1758 – 1760)

引用元:『ボードワン夫人の肖像』 CC-Zero
ブーシェの次女マリー・エミリー・ブーシェ( Marie-Émilie Boucher )は、ブーシェの弟子ピエール=アントワーヌ・ボードワン( Pierre-Antoine Baudouin, 1723年 – 1769年)と1758年に結婚。
1769年にボードワンが亡くなった後、父ブーシェの友人である建築家のシャルル・エティエンヌ・ガブリエル・キュヴィレルと再婚しています。
デエ、ボードワン同様、ブーシェの弟子だったジャン・オノレ・フラゴナール( Jean Honoré Fragonard, 1732年 – 1806年)。
フラゴナールの『ラヴ・レター(『恋文』)』のモデルは、マリー・エミリー・ブーシェ説があります。
『花籠に寄りかかる少女の胸像』( Portrait en buste d’une jeune fille appuyée sur une corbeille de fleurs )
グラフィック・アーツ部門(Département des Arts graphiques)Portrait en buste d’une jeune fille appuyée sur une corbeille de fleurs, INV 24813, Recto

引用元:Portrait en buste d’une jeune fille appuyée sur une corbeille de fleurs
ルーヴル美術館収蔵のパステル画。
ザビエル・サルモンは、モデルをフランソワ・ブーシェの次女マリー=エミリー(1740-1784)と特定している。
ニール・ジェファーズは、このパステル画をフランソワ・ブーシェの作品とし、モデルをマリー=エミリー・ボードゥアンと特定している(『1800年以前のパステル画家辞典』、ロンドン、2006年、65ページ)。(Google翻訳)Portrait en buste d’une jeune fille appuyée sur une corbeille de fleurs
もし『昼食(朝食)』の人物たちが本当にブーシェの家族だったとしたら、絵に描かれた女の子たちは、幼かった頃の姉妹なのでしょうか。
優れた装飾性、きわどく官能的な絵画が印象に残るブーシェですが、幼子に向けた優しい眼差しに、画家の人間性を見る思いです。
- ソフィー・D・コウ/ マイケル・D・コウ(著). 樋口幸子(訳). 『チョコレートの歴史』. 河出書房新社.
- アンドリュー・ドルビー(著). 大山晶(訳). 2014. 『朝食の歴史』. 原書房.
- クロエ ドゥートレ・ルーセル(著). 宮本 清夏・ボーモント 愛子・松浦 有里(訳). 2009. 『チョコレート・バイブル 人生を変える「一枚」を求めて』. 青志社.
- 前田正明・櫻庭美咲(著). 平成18-1-31. 『ヨーロッパ宮廷陶磁の世界』. 角川選書.
- ジャン・コルダン, オリヴィエ・マルティ(著). 藤田真利子(訳). 2005-10-10. 『お尻とその穴の文化史』. 作品社.
- メトロポリタン美術館編. 1993-6-15. 『メトロポリタン美術館ガイド』. 同朋舎出版.
- 鈴木杜幾子(著). 『フランス絵画の「近代」 シャルダンからマネまで』.1995-12-10. 講談社選書メチエ.
シュリー翼第921展示室
第921展示室だけでなくシュリー翼にあるブーシェの作品


hanna_and_art’s blog の記事


飲むチョコレートの話







