威厳を感じるというより、「不便じゃない?」と思ってしまう首周りの飾り、ラフ。この、いかにも不便そうな襞襟(ひだえり)が、暴漢から貴族の命を救ったことがあるという…。
1600年代、巨大になった襞襟
肖像画の、貴族たちの首の周りにあるフリフリ。
襞襟が登場したのは1550年代といわれています。
下は、神聖ローマ皇帝カール5世の肖像ですが、首元はまだシンプル。

引用元:神聖ローマ皇帝カール5世
アルテ・ピナコテークBildnis Kaiser Karls V. im Lehnstuhl, 1548, Tiziano Vecellio, gen. Tizian
カール5世の息子、スペイン王フェリペ2世の首元は、繊細なレースで飾られています。

引用元:Felipe II por Sofonisba Anguissola, 1573
プラド美術館Felipe II, Sofonisba Anguissola
フェリペ2世の息子 フェリペ3世の頃にはかなりデカくなっていますねー。

引用元:Velazquez-felipeIII (cropped)
プラド美術館Felipe III, a caballo, Diego Rodríguez de Silva y Velázquez y otros
フェリペ2世のようなネック・フリルから発展し、針金の枠を入れ、紐で首に結ぶようになったラフ。
素材は、リネンやキャンブリックなど。
それをかたく糊付けし、特別のアイロンを使って、襞をつけていきます。
手入れするほうも大変ですが、身に着けるほうもかなり大変だったのでは、と思いますが、『物語 スペインの歴史 人物篇』(中公新書)では、この襟飾り(レタス襟といいます)の利点を挙げています。
この襟飾りにもひとつ利点がある。ある貴族が暴漢に襲われた。このとき、大きな襟飾りが邪魔をして首を落とせなかった。焦った暴漢がいくら短剣をふるっても、頑丈に糊づけされたカラーは頑として刃を受け付けなかったのである。
岩根圀和(著). 2004-5-25. 『物語 スペインの歴史 人物篇』. 中公新書. pp. 150-151.
えっ、そんなに硬かったの?
襟というより、もはや防具。
父フェリペ3世と違い、息子であるフェリペ4世はこのような「レタス襟」を快く思っていませんでした。

引用元:フェリペ4世
プラド美術館Felipe IV, Felipe IV, Diego Rodríguez de Silva y Velázquez
祖父、曾祖父の肖像を思い起こさせるフェリペ4世のいでたちですね。
フェリペ4世は、1623年にレタス襟の禁止令を出し、レタス襟の時代は終わりを迎えました。
これ以降、襟飾りは下へ垂れ下がり、肩にかかるようになります。

引用元:『フラガのフェリペ4世』
フリックコレクションPhilip IV of Spain, Velázquez, Diego, 1599-1660
ラフの話はこちら
