画家ヴァン・ダイクの名が付いたレースとヒゲ(ヴァンダイク・ブラウンの項に追記しました)

古代のミルク風呂とミルクを使った古代のレシピ

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果たして、ミルクは飲むものか、使うものなのかというハナシです。

クレオパトラ7世頭部像 紀元前40年-前30年頃 旧博物館(ベルリン)
クレオパトラ7世頭部像 紀元前40年-前30年頃 旧博物館(ベルリン)

画像の上でクリックまたはタップすると大きい画像が出ます。また、画像の左下にある「引用元」のリンクをクリックしていただければ、元のファイルをご覧になることができます。「引用元」の表示が無いものは、この記事内に掲載したpublic domain の元ファイルから、解説のために必要な部分を拡大したものです。

目次

ミルク風呂

古代エジプト

古代エジプトにおいて、クレオパトラはその美を保つために、ロバの乳のお風呂に入っていました。

『ネフェルティティもパックしていた』(原書房)によると、クレオパトラひとりが1回入浴するのに、500頭ものロバのミルクが必要だったそうです。

クレオパトラ7世頭部像 Louis le Grand 紀元前40年-前30年頃 旧博物館(ベルリン)
クレオパトラ7世頭部像 紀元前40年-前30年頃 旧博物館(ベルリン)

引用元:クレオパトラ7世頭部像 Louis le Grand

お風呂にはミルク以外にも、サンダルウッドのオイルやバニラ・エッセンスなどが入っていました。

新王国時代の第18王朝のファラオ・アクエンアテンの正妃ネフェルティティのミルク風呂に入れる材料も、デーツや卵黄、ゴマ油など、何やら美味しそうなものの名前が挙げられています。

 ロバやトナカイのミルクは、牛よりも栄養価が高いミルクです。プロテインを多く含み、皮膚の炎症を緩和する性質が多くあるので美容に向いています。

アンヘラ・ブラボ(著). 今木照美(訳). 『ネフェルティティもパックしていた』. 原書房. p.197.
ネフェルティティ胸像 紀元前1345年頃 ベルリン新博物館蔵
ネフェルティティ胸像 紀元前1345年頃 ベルリン新博物館蔵

引用元:ネフェルティティ胸像 Giovanni  CC-BY-2.0

古代ローマ

ポッパエア・サビナ( 30年-65年) ローマ国立博物館蔵
ポッパエア・サビナ( 30年-65年) ローマ国立博物館蔵

引用元:ポッパエア・サビナ TcfkaPanairjdde CC-BY-SA-3.0,2.5,2.0,1.0

ローマ帝国の第5代皇帝ネロ( 37年12月15日-68年6月9日)の二人目の妃であるポッパエア・サビナ( Poppaea Sabina, 30年-65年)も、

自分の浴槽をロバの乳で満たすために、どこに行くにも(子ロバを含めて)雌ロバの大群を引き連れていったという。ロバの乳は肌のきめを整えてやわらかくするだけでなく、しわを取り除き、美白効果があると考えられていた。

ハンナ・ヴェルデン(著). 堤 理華(訳).『ミルクの歴史』. 原書房. p.65.

こちらもロバ乳ですね。

入浴のために連れて行かれる多くのロバ。

さぞ圧巻でもあったろうと想像しますが、それには何人のお世話係がいたのでしょうね。

ロバに餌を与え、入浴のための乳をしぼる…。

一体どれくらいの人手、時間を費やしたのでしょう。

ポッパエア・サビナ(フォンテーヌブロー派) 1570年頃 ジュネーヴ美術・歴史博物館蔵
ポッパエア・サビナ(フォンテーヌブロー派) 1570年頃 ジュネーヴ美術・歴史博物館蔵

引用元:ポッパエア・サビナ(フォンテーヌブロー派)

ポッパエアは野心家で非情な女性だったとされ、ネロの母小アグリッピナの殺害にも関与したと言われています。

ポッパエアは、

「アウグスタ(女皇)」の称号を受けたことで知られています。支配的な性格と邪悪な心に満ちたポッパエアは、皇帝ネロと結婚するために、何人もの人を殺しました。もくろみが成功して結婚し念願の権力を手に入れたものの、仲のよい夫婦というわけにはいきません。

アンヘラ・ブラボ(著). 今木照美(訳). 『ネフェルティティもパックしていた』. 原書房. p.206.

情緒不安定で激昂し易いネロは、妊娠していたポッパエアの腹部を蹴り、彼女はそれが原因で亡くなったそうです、

 不幸な最期をとげたポッパエアでしたが、美への執着心から、だれよりも美しい肌を手に入れようと天然素材で作った化粧品で、毎日さまざまなスキンケアをしており、そのひとつが女王クレオパトラと同様のミルク風呂です。

ポッパエアの入浴法は広まり、美肌を求める多くの女性たちがまねをしました。ポッパエアがローマを離れるときも、ミルク風呂を続けたい一心で、ロバの群れを連れていく許可を申請したという記録が残っています。

アンヘラ・ブラボ(著). 今木照美(訳). 『ネフェルティティもパックしていた』. 原書房. p.207.

また、『ミルクの歴史』によると、古代ギリシアやローマの女性たちは夜になると、「パンをミルクで浸した美顔パック」を顔に乗せていたそうです。

ミルクで浸したパン(゚д゚)!。

これに卵と砂糖を追加してフライパンで焼いたら、立派なフレンチトーストが出来上がりそうですね。 美味しそう!

英語で「フレンチトースト」( French toast )といいますが、フランス語では「 pain perdu 」(失われたパン)。

硬くなったパン(失われたパン)を、牛乳や卵に漬けてやわらかくして「生き返らせ」ていただきますもんね。

使う材料は少し違うかもしれませんが、この食べ方は古代ローマ帝国の頃からあったそうです。

下はポンペイの遺跡(1世紀)で発見された古代のパンです。参考までに。

ポンペイで発見された古代ローマのパン 国立考古学博物館 (イタリア)
ポンペイで発見された古代ローマのパン 国立考古学博物館 (イタリア)

引用元:ポンペイで発見された古代ローマのパン Beatrice CC-BY-SA-2.0-IT

また、この遺跡から現れたパンや菓子の実物、あるいは壁画がナポリの考古学博物館にある。それを見ても現代のそれと比べ何の遜色もないできばえである。そのパンの実物は、写真のようにふっくらふくらみ、八等分できるように分割線がはいっているのが特徴。このような八つ割りパンは、古代ギリシャから受けついだものらしい。ヘーシオドス(紀元前七〇〇年前後)の『仕事と日』に、「八人前のパンを四つ割りにして食事に与え」という表現で現れているのだから、大変に古い伝統をもつパンで、「オクタブロモス」という名がついていた。

舟田詠子(著). 2014-7-2. 『パンの文化史』. 朝日選書. pp.130-133.

後世の、イングランドのエリザベス朝時代でもアンチ・エイジングはやっぱり盛んでした。

美白に保湿と、美肌を保ちたい女性にとっては大きな関心事でしたが、しわ取りと肌の潤いを保つため、化粧水やクリームの成分にはロバの乳が用いられたそうです。

『ミルクの歴史』には、簡単に真似できそうな「蜂蜜入りミルク風呂」のレシピが p.171. に、『ネフェルティティもパックしていた』では、pp.199.-200. にクレオパトラとネフェルティティのミルク風呂の作り方が載っていますので、ご興味のある方はどうぞ。

ネフェルティティもパックしていた

一体、どこまで本当に実践していたのか(゚Д゚)ノとは思いますが、この手の本、結構好きなんです。

お嫌いじゃなければ、ぜひ。

画像をクリックすると Amazon のサイトに移動します。

ネフェルティティもパックしていた

古代のレシピ

イシスの乳

「神々の食べ物」として、『ミルクの歴史』には、古代エジプトの女神イシスの名を取った「イシスの乳」が掲載されています。

ミルクにアーモンドシロップとイチゴを加えた、聖なる「イシスの乳」というレシピが今に伝えられている。ほのかなピンク色と甘味をおびたこのミルクは、イシスの息子ホルス、死者、そしてファラオ ー ホルスの化身でイシスの聖なる息子とされた - を養うためにイシスが与える癒しの乳をあらわしていた。

ハンナ・ヴェルデン(著). 堤 理華(訳).『ミルクの歴史』. 原書房. p.52.

これも実に美味しそうですねえ。

イシスと息子ホルス 紀元前680年頃と640年頃の間 ウォルターズ美術館蔵
イシスと息子ホルス 紀元前680年頃と640年頃の間 ウォルターズ美術館蔵

引用元:イシスと息子ホルス ウォルターズ美術館 CC-BY-SA-3.0

そしてミルクは「シトゥラ」( Situla )という、「乳房の形をした壺」に入れられ、供物として礼拝に向かう人々の列によって運ばれて行きます。

ブロンズ製のシトゥラ(2-3世紀、ローマ時代)  ニーダーザクセン州立博物館
ブロンズ製のシトゥラ(2-3世紀、ローマ時代)  ニーダーザクセン州立博物館蔵

引用元:シトゥラ User:Bullenwächter CC-BY-SA-3.0-migrated-with-disclaimers

アピキウスのレシピ

『ミルクの歴史』では、古代の美食家・アピキウスによる著書を挙げています。

マルクス・ガウィウス・アピキウス( Marcus Gavius Apicius )は、1世紀頃の、ティベリウス帝の時代の料理人ですが、その生乳を使ったレシピについて、

料理法は、塩漬け肉をやわらかくするためにミルクで煮るという簡単なものから、魚、鶏肉、ソーセージ(ほかにオイスター、脳髄、クラゲなども入っている)をミルクと卵のクリームで煮てテリーヌにするという豪華な一品まで幅広い。また、木の実とカスタードのパイなどの菓子にも使われたほか、「cocleas lacte pastas(乳で肥育したカタツムリ)」という実験的な料理もあった。

ハンナ・ヴェルデン(著). 堤 理華(訳).『ミルクの歴史』. 原書房. p.38.

もちろん、生乳を醗酵させ、ヨーグルト状にして食べたりもしたようです。

そして、期待の cocleas lacte pastas のレシピは、

  1. カタツムリをとり、スポンジできれいにする。
  2. その後、(殻から)出られるように膜を取り除く。
  3. 容器に、カタツムリとミルクと塩を入れて一日間おく。
  4. その後の数日間はミルクだけにして飼い、一時間おきに排泄物を取り除く。
  5. カタツムリが殻に戻れなくなるほど肥ったら、オリーブ油で揚げる。

だそうです。

ミルクは使用するものか、または食するものか、ですが、私はやっぱり食する方がいいですね。

主な参考文献
  • 舟田詠子(著). 2014-7-2. 『パンの文化史』. 朝日選書.
  • アンヘラ・ブラボ(著). 今木照美(訳). 『ネフェルティティもパックしていた』. 原書房.
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コメント

コメント一覧 (16件)

  • schun (id:schunchi2007)様
    コメント有難うございます。
    野心家の美女に権力が行くとロクなことしないという感じでしょうか(笑)。
    ロバのミルクが本当に効くのかそこが知りたいです。
    今回も読んで下さって有難うございました。

  • nonshan様
    有難く、嬉しいお言葉です。
    有難うございます。
    ロバのミルク、意外な反響?でした。
    投稿した後で、「あ、ここに書いてあった」という本が出てきましたので、続きを近々出したいと思います。
    どうかまたよろしくお願いいたします。

  • おはようございます。
    ミルクにこんな使い道があるとは知りませんでした。
    それにしても、どれだけの労力を美のためにかけていたのでしょうか。
    やっぱり、昔の時代の為政者近くのお方ってのは発想も違いますね。(;^_^A。

  • ハンナさん、こんばんは。現代の食生活や美容が
    ローマ時代から受け継がれてきていたのには驚きです。ミルクは牛ではなく、ロバ中心だったのですね。ロバの方が牛より小型で扱いやすかったのかしら? 時々、読ませて頂いていますが、わかりやすく納得することばかりです。ありがとうございます。

  • 石山藤子 (id:genjienjoy)様
    本を読んでいて、私もロバミルク試してみたい!と思いましたね。
    仰るように他に家畜もいたでしょうにね。ロバのミルクが美容に効くと、経験でわかっていたのでしょうかね。
    500頭のロバに対し、お世話係は何人くらいいて、お風呂を用意するのにどれ程の時間がかかっていたのでしょう。興味ありますね。
    今回も読んで下さって有難うございました。

  • happy-ok3様
    私もロバのミルクは飲んだことがありません。どんな匂いと味なのか、一度試してみたいです。
    また、ひとりのために500頭のロバが連れられていく様は壮観だったことでしょう。ロバだけでなく、世話係もいることですしね。
    固くなったパンを牛乳にひたす食べ方。恐らくhappy-ok3様なら、フェルメールが描いた、牛乳を注いでいる女性の絵をご覧になっていると思います。アレですね。
    今回も読んで下さって有難うございました。

  • 森下礼 (id:iirei)様
    「身の回りのあらゆるもの」ねえ。
    じゃあ私の望みなんて大したことないな。可愛いものですよ。
    年一回でいいから、フェルメール全店踏破の旅をしたいとか、ルーヴル貸し切りとか、その程度ですから。
    あ、飛行機はビジネスクラスでいいです。

  • くろいぬ (id:suburikuroinu)様
    コメント有難うございます。
    私は普段牛乳より豆乳を飲みますが、この記事を書いた頃はフレンチ・トーストがマイブームでした。
    絵や工芸品も大好きですが、古代の食べ物や生活様式にもすごく興味があります。記事内でご紹介したパンですとか、古代ポンペイのパン屋の遺跡なども。
    昔からあんなパンがあったというのも面白いですね。名前もあるし(゚д゚)!
    今回も読んで下さって有難うございました。

  • まーたる (id:ma-taru)様
    コメント有難うございます。
    ミルク風呂、市販の牛乳くらいしか想像がつかないのですが、ロバ乳だと匂いとかどうなんでしょうね。効くのかな。
    胸像のネフェルティティ、今でも十分に通用する美貌ですよね。あの時代、彼女は相当に目立っていたんでしょうね。
    古代ローマのパン、ギリシャのパンの流れで多分エジプトのものとは違っていたと思います。また確認してみます。
    ハイジのパン、印象深いですね(*’▽’)。
    初めてのドイツで黒パンと白パンを食べたとき、ハイジがペーターのおばあさんにと白パンを取り置きした気持ちがよくわかりました。
    初めての黒パン、口の中の水分を全部持って行きました(笑)。
    今回も読んで下さって有難うございました。

  • 古代はロバのミルクが大人気ですね~。
    この時代、ヤギとか羊とかもいたでしょうに
    選ばれたのは、ロバのミルク。
    皮膚へ良い作用をすることを、経験値から知っていたのでしょうか。
    しかし、ロバ500頭を連れてお出かけって…
    ロバの世話をする使用人もたくさんいたでしょう。
    古代の特権階級、恐るべしです。

  • 少納言 (id:syounagon)様
    今回も読んで下さって有難うございます。
    好きは好きなんですが、残念ながら「世界史」的にはあまり詳しくないんです💦。今回のような生活や美容系(美容術とか髪型とか)のようなものに興味がありまして。
    また投稿してみたいと思いますので、どうぞよろしくお願いいたします。
    有難うございました。

  • こんばんは。
    >「クレオパトラひとりが1回入浴するのに、500頭ものロバのミルクが必要だったそうです。」
    何とも、贅沢ですね。
    フレンチトーストは、フランス語では失われたパン。
    パンだけでなく、心も、柔らかくして、生き返らせて、過ごす事が大事だなあと思いました。
    ロバのミルクは、食したことがないですが、
    この時代は、美容にも用いられていたのですね。
    また、色んな調理があり、そのレシピ、豪華ですね。
    今日も有難うございます。

  • 女性の欲望は、男性の欲望がただ一点「女とやりたい!!」ということに収斂するのに対し、「身の回りのあらゆるものを支配したい」というように拡散するようです(『サルでも描けるまんが教室』の記述から(マンガです))。
    美容のため金に糸目をつけないのも、平成天皇が皇太子時代に行った豪華なパレード、披露宴を、「自分もやってみたい」と思ったのも、男性ではなく女性でしたね。

  • こんにちは。牛乳は最近飲んでませんので、近々パンを浸して食べようと思います。
    割りパンはピザのようで、古代ギリシャにこの形があったとは驚きです。

  • こんにちは(о´∀`о)
    ミルク風呂ってなんだか高貴な雰囲気たっぷりですよね(*☻-☻*)
    ネフェルティティの胸像は本当に素晴らしいです
    (*☻-☻*)✨
    見れば見るほど美しくて、凛とした表情が素敵です。
    意志の強さが現れてますね(*´꒳`*)
    古代ローマのパンが可愛いです✨
    どんなパンだったんだろう、ビールを使って作っていたのでしたか❓
    ハイジに出てくる白パンみたいな、ふんわりしたイメージがあります(●´ω`●)

  • 古代オリエント、ローマ史、とても大好きです🌟これからも記事を楽しみにしています🤗
    感謝🌷

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