『魔法円』『キルケ』ウォーターハウスが描く魔法使いたち

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神話や伝説の中の美女を多く描いた19世紀英国の画家ウォーターハウス。今回は『魔法円』『キルケ』を掲載しました。彼女たちの美しい衣裳もご覧ください。

『魔法円』( The Magic Circle ) 1886年 ジョン・ウィリアム・ウォーターハウス テート・ブリテン蔵
『魔法円』( The Magic Circle ) 1886年 ジョン・ウィリアム・ウォーターハウス テート・ブリテン蔵
目次

魔法円を描く魔法使い

『魔法円』( The Magic Circle ) 1886年 ジョン・ウィリアム・ウォーターハウス テート・ブリテン蔵

『魔法円』( The Magic Circle ) 1886年 ジョン・ウィリアム・ウォーターハウス テート・ブリテン蔵
『魔法円』 1886年 ジョン・ウィリアム・ウォーターハウス テート・ブリテン蔵

引用元:『魔法円』

煮立った大釜から湯気が立ち上っています。

太古の異教の儀式を描いたかのようなこの作品は、フランス自然主義絵画の影響が色濃く認められる。素早く重ねた平たい筆致は、湯気が勢いよく立ち上る様をとらえている。

川端康雄(監修・著). 加藤明子(著). 2015-3-31. 『ウォーターハウス 夢幻絵画館』. 東京美術. p.43.
『魔法円』( The Magic Circle ) 1886年 ジョン・ウィリアム・ウォーターハウス テート・ブリテン蔵
『魔法円』 ジョン・ウィリアム・ウォーターハウス

引用元:『魔法円』

女性が一人、湯気が立ち上る窯を前に、右手の杖で円を描いています。

よく見ると首には蛇が巻かれ、足元にはカラス、ヒキガエル、土に埋まったドクロ…。

全体にブキミな雰囲気なのですが、腰に差した花束にちょっと和みます。

『魔法円』( The Magic Circle ) 1886年 ジョン・ウィリアム・ウォーターハウス テート・ブリテン蔵
『魔法円』 ジョン・ウィリアム・ウォーターハウス

引用元:『魔法円』

『魔法円』( The Magic Circle ) 1886年 ジョン・ウィリアム・ウォーターハウス テート・ブリテン蔵
『魔法円』 ジョン・ウィリアム・ウォーターハウス

引用元:『魔法円』

女性の衣装も良いですね。「魔女といえば黒い衣装」みたいなイメージがありますが、彼女の衣装には柄もあり、腰の花束のせいもあってか、華やかな印象を持ちます。

これは異教の魔法でも他者を攻撃する黒魔術ではなく、女性が描いているのは自分を守る魔法円のようです。

もしかして、腰の花も魔術に使うもの?

廃墟のような場所で動物たちを従え、彼女は何を望み唱えるのでしょうか。

『魔法円』( The Magic Circle ) 1886年 ジョン・ウィリアム・ウォーターハウス 個人蔵

『魔法円』 1886年 高さ 88 cm × 幅 66 cm ジョン・ウィリアム・ウォーターハウス 個人蔵
『魔法円』 1886年 88 × 66 cm ジョン・ウィリアム・ウォーターハウス 個人蔵

引用元:『魔法円』

この絵の資料が見当たらないので、Wikipediaの概要欄を参考にさせていただきます。

English: «A later inscription on the reverse of the canvas suggests that this picture was a study for the painting at Tate Britain. However, the high level of finish and the existence of another, smaller and loosely painted picture of the same composition suggests that they were produced as versions, probably worked upon concurrently. This was often Waterhouse’s practice and he would produce several versions of a picture, one of which would be worked up as the prime version. The only picture that should probably be described as a study is the wash drawing exhibited at the Dudley Gallery in 1881 (private collection) which proves that the subject had been suggested to Waterhouse at least five years earlier than the oil paintings.» (see source)

Wikipedia : File:The magic circle, by John William Waterhouse.jpg

Google翻訳:「キャンバスの裏側にある後の碑文は、この絵がテート ブリテンでの絵画の習作であったことを示唆しています。しかし、完成度の高さと、同じ構図で小さくゆるく描かれた別の絵の存在は、それらがバージョンとして制作され、おそらく同時に作業されたことを示唆しています。これはしばしばウォーターハウスの習慣であり、彼は写真のいくつかのバージョンを作成し、そのうちの 1 つがプライムバージョンとして仕上げられました。おそらく習作として説明されるべき唯一の絵は、1881年にダドリー・ギャラリーに展示された淡彩画(個人蔵)であり、これはこの主題が油彩画より少なくとも5年前にウォーターハウスに提案されていたことを証明している。」(出典を参照))

色がハッキリしている分、衣装の柄がわかり易いかな? 古代ギリシャの戦士っぽいですね。

『魔法円(習作)』( Study for The Magic Circle ) 1886年 ジョン・ウィリアム・ウォーターハウス 個人蔵

『魔法円(習作)』( Study for The Magic Circle ) 61.5 × 41.2 cm 1886年 ジョン・ウィリアム・ウォーターハウス 個人蔵
『魔法円(習作)』( Study for The Magic Circle ) 61.5 × 41.2 cm 1886年 ジョン・ウィリアム・ウォーターハウス 個人蔵

引用元:『魔法円(習作)』

クリスティーズ:Study for The Magic Circle

The present picture is a compositional sketch for one of J W Waterhouse’s most intriguing paintings, The Magic Circle (1886). Now in the permanent collection of Tate, the larger, signed version was so well received at the Royal Academy’s Summer Exhibition of 1886 that it was purchased for the nation by a committee of Academicians using funds from the Chantrey Bequest.

The fact that Waterhouse worked up this preparatory sketch in such detail underscores how seriously he viewed the ‘final’ canvas, the first he exhibited after his election to the rank of Associate in the Academy in June 1885. The artist had considered this occultist motif since at least 1881, when he exhibited a sepia drawing of a somewhat less agitated-looking witch at London’s Dudley Gallery (private collection).

John William Waterhouse, R.A. (1848-1917)
Study for The Magic Circle, https://www.christies.com/lot/lot-5210397/?intObjectID=5210397

Google翻訳:この写真は、JW ウォーターハウスの最も興味深い絵画の 1 つである魔法陣(1886 年) の構成スケッチです。現在、テート美術館の常設コレクションに収蔵されている、より大きな署名入り版は、1886 年のロイヤル アカデミーの夏季展覧会で非常に好評だったので、シャントレー遺贈からの資金を使用して学術委員会によって国民のために購入されました。

ウォーターハウスがこの準備スケッチを非常に詳細に仕上げたという事実は、彼が 1885 年 6 月にアカデミーの準会員に選出された後に初めて展示した「最終」キャンバスをいかに真剣に考えていたかを強調しています。芸術家は、それ以来このオカルティズムのモチーフを検討していました。少なくとも 1881 年、彼はロンドンのダドリー ギャラリー (個人コレクション) で、やや動揺していない様子の魔女を描いたセピア色の絵を展示しました。)

この解説には、魔女の首に巻きついた蛇は「地球を取り囲み生と死のサイクルを象徴する大蛇、ウロボロスを表している可能性」があると書かれています。

また、女性が左手に持つ三日月形のものは「ケルトのドルイド僧や魔女がハーブを切るために使用するボリン」( boline )であることなどもわかります。

boline
boline

引用元:KeyOfSolomonSickle

スカートの柄についても、描かれているのはケルト模様ではなく、大蛇( serpent )に立ち向かう古代ギリシャの戦士であるとあります。

それは、金羊毛を守る蛇から、魔女メディアが作った薬で金羊毛を奪い取るイアソンなのでしょうか。

『魔法円(習作)』(一部を拡大) ジョン・ウィリアム・ウォーターハウス
『魔法円(習作)』(一部を拡大) ジョン・ウィリアム・ウォーターハウス

引用元:『魔法円(習作)』

テート・ブリテンの『魔法円』も習作も、どれも神秘的で不思議な雰囲気があって素敵です。

近くに飾っておけば何か良いことがありそうな…。(ご利益?)

ウォーターハウス 夢幻絵画館

昔々、ウォーターハウスの絵が観たくて、時々ロンドンまで出掛けて行きました。

その度テイト・ギャラリー(現在のテート・ブリテン)で画集を買い込み、大変重たい思いをして持ち帰ったものです。

日本で日本語でこの『ウォーターハウス 夢幻絵画館』が出ているのを見つけた時は小躍りしそうになりましたね。

興味がある方はぜひお手に取ってご覧になってください。

解説も丁寧ですし、入手して損はしない一冊だと思います。

魔女キルケ

『オデュッセウスに杯を差し出すキルケ』( Circe Offering the Cup to Odysseus ) 1891年 ジョン・ウィリアム・ウォーターハウス オールダム美術館蔵

『オデュッセウスに杯を差し出すキルケ』( Circe Offering the Cup to Odysseus ) 1891年 ジョン・ウィリアム・ウォーターハウス オールダム美術館蔵
『オデュッセウスに杯を差し出すキルケ』 1891年 ジョン・ウィリアム・ウォーターハウス オールダム美術館蔵

引用元:『オデュッセウスに杯を差し出すキルケ』

オールダム美術館:Circe: Gallery Oldham’s Most Queried Painting

キルケとは、古代ギリシアの長編叙事詩『オデュッセイア』に登場する魔女です。

キルケが差し出す飲み物を口にしてしまった男性は、豚やカエルなどの動物に姿を変えられてしまいます。

円形の鏡に映り込むのは船着き場、円柱、そしてオデュッセウス。

キルケは太陽神ヘリオスの娘ということですので、鏡が円形なのは「太陽」をイメージしているとの説もあります。

『オデュッセウスに杯を差し出すキルケ』( Circe Offering the Cup to Odysseus ) 1891年 ジョン・ウィリアム・ウォーターハウス オールダム美術館蔵
『オデュッセウスに杯を差し出すキルケ』 ジョン・ウィリアム・ウォーターハウス

引用元:『オデュッセウスに杯を差し出すキルケ』

『嫉妬に燃えるキルケ』( Circe Invidiosa ) 1892年 ジョン・ウィリアム・ウォーターハウス 南オーストラリア美術館蔵

『嫉妬に燃えるキルケ』 1892年 ジョン・ウィリアム・ウォーターハウス 南オーストラリア美術館蔵
『嫉妬に燃えるキルケ』 1892年 ジョン・ウィリアム・ウォーターハウス 南オーストラリア美術館蔵

引用元:『嫉妬に燃えるキルケ』

南オーストラリア美術館:Circe Invidiosa

恋するグラウコスに拒絶され、激昂するキルケ。

「恋敵」であるスキュラに呪いをかけるべく、スキュラが好んで水浴びをする入江の水に毒薬を注ぎ込み、呪文を唱えます。

『嫉妬に燃えるキルケ』 1892年 ジョン・ウィリアム・ウォーターハウス 南オーストラリア美術館蔵
『嫉妬に燃えるキルケ』 ジョン・ウィリアム・ウォーターハウス

引用元:『嫉妬に燃えるキルケ』

嫉妬に燃え、ざわざわと波打つキルケの髪。

背景の木立と同じように直立する姿勢に、緑がかった衣装。そして妖しい色の毒薬。

彼女の足元には奇怪な姿の怪物がいます。

これは呪いの水を浴びた気の毒なスキュラということです。

『キルケ』(スケッチ)( Sketch of Circe ) 1911年-1914年 ジョン・ウィリアム・ウォーターハウス 個人蔵

『キルケのスケッチ』( Sketch of Circe ) 1911年-1914年 ジョン・ウィリアム・ウォーターハウス 個人蔵
『キルケのスケッチ』 1911年-1914年 ジョン・ウィリアム・ウォーターハウス 個人蔵

引用元:『キルケのスケッチ』

『キルケ』(スケッチ)( Circe ) 1911年 ジョン・ウィリアム・ウォーターハウス 個人蔵

『キルケのスケッチ』( Sketch of Circe ) 1911年-1914年 ジョン・ウィリアム・ウォーターハウス 個人蔵
『キルケのスケッチ』 1911年-1914年 ジョン・ウィリアム・ウォーターハウス 個人蔵

引用元:『キルケのスケッチ』

本作は”The Sorceress” の名でも呼ばれるかもしれません。

1891年、1892年にキルケを描いてから20年後、ウォーターハウスは再びキルケを描いています。

どちらのスケッチでもキルケは椅子に腰かけ、横を向いています。

何か新しい魔法でも考えているのでしょうか。

水晶球を覗き込む魔女

『水晶球』( The Crystal Ball ) 1902年 ジョン・ウィリアム・ウォーターハウス 個人蔵

『水晶玉』( The Crystal Ball ) 1902年 ジョン・ウィリアム・ウォーターハウス 個人蔵
『水晶玉』 1902年 ジョン・ウィリアム・ウォーターハウス 個人蔵

引用元:『水晶球』

もの思いに耽る若い女性。ロマンティックな場面かと思ってよく見ると、テーブルの上にはどくろが…( ゚Д゚)。

どくろは「メメント・モリ(死を忘れるなかれ)」を意味する西洋絵画の伝統的なモティーフです。

この絵が単なる寓意画ではないとされるのは、女性のドレスにあしらわれている、とぐろを巻いた蛇であり、開かれた本にある魔術のシンボルの挿絵、そこには魔法使いが使う杖があるから。

『水晶玉』 1902年 ジョン・ウィリアム・ウォーターハウス 個人蔵
『水晶玉』 ジョン・ウィリアム・ウォーターハウス

引用元:『水晶球』

『水晶玉』 1902年 ジョン・ウィリアム・ウォーターハウス 個人蔵
『水晶玉』 ジョン・ウィリアム・ウォーターハウス

引用元:『水晶球』

このどくろは、1950年に本作を購入した人物が嫌ったことにより、塗り潰されてしまったそうです。

しかし1990年代になり、この作品が別の所有者の手に渡った後X線調査が行われ、どくろは復元されました。

『ウォーターハウス 夢幻絵画館』で「どくろが塗り潰された状態」の絵を見ることができます。

薬を調合する魔女

『イアソンとメディア』( Jason and Medea ) 1907年 ジョン・ウィリアム・ウォーターハウス 個人蔵

『イアソンとメディア』( Jason and Medea ) 1907年 ジョン・ウィリアム・ウォーターハウス 個人蔵
『イアソンとメディア』 1907年 ジョン・ウィリアム・ウォーターハウス 個人蔵

引用元:『イアソンとメディア』

メディアはキルケの姪に当たる、ギリシア神話に登場する魔女です。

フランスの画家ドラクロワは、メディアが、ふたりの間にできた子どもたちを殺害する場面を描いています。

ウォーターハウスの絵画では、

金毛羊皮を求めるアルゴナウタイの冒険譚ぼうけんたんのなかで、イアソンに恋したメデイアがイアソンのために魔法の薬を調合する場面が描かれている。メデイアの思いつめた表情には、父を裏切る苦悩と、恋する男に裏切られる予感も混じっているように見える。

川端康雄(監修・著). 加藤明子(著). 2015-3-31. 『ウォーターハウス 夢幻絵画館』. 東京美術. p.125.

薬を豪華な金のゴブレットに入れようとするメディアの思いつめた顔。

イアソンとの間に子どもたちをもうけるも、夫に裏切られ、復讐するという未来をも予感させます。

『イアソンとメディア』( Jason and Medea ) 1907年 ジョン・ウィリアム・ウォーターハウス 個人蔵
『イアソンとメディア』 ジョン・ウィリアム・ウォーターハウス

引用元:『イアソンとメディア』

ジョン・ウィリアム・ウォーターハウス( John William Waterhouse, 1849年4月6日-1917年2月10日)

ジョン・ウィリアム・ウォーターハウス 1886年頃
ジョン・ウィリアム・ウォーターハウス 1886年頃

引用元:ウォーターハウス(写真)

ジョン・ウィリアム・ウォーターハウスはキルケ、メディアなどの魔女、人魚、水の精などを多く描いています。

どれもひと目見て心を奪われるような美女ばかりです。

ウォーターハウスの「ジャンヌ・ダルク」19世紀の画家が描くジャンヌ・ダルクの甲冑と1429年時の武具の値段

代表作とも言える『シャロットの乙女』小舟に乗る『シャロットの乙女』(ウォーターハウス作)

こちらは「ハムレット」のオフィーリアミレーの『オフィーリア』が後の画家に与えた影響

現代の魔法使いといえばハリー・ポッター。

ハリー・ポッターと魔法の歴史』(2021年~2022年)展では、テート・ブリテン所蔵の『魔法円』が来日していました。

貴重図書も多く展示されていて、とても興味深い催しでした。

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