神話や伝説の中の美女を多く描いた19世紀英国の画家ウォーターハウス。今回は『魔法円』『キルケ』を掲載しました。彼女たちの美しい衣裳もご覧ください。

魔法円を描く魔法使い
『魔法円』( The Magic Circle ) 1886年 ジョン・ウィリアム・ウォーターハウス テート・ブリテン蔵

引用元:『魔法円』
煮立った大釜から湯気が立ち上っています。
太古の異教の儀式を描いたかのようなこの作品は、フランス自然主義絵画の影響が色濃く認められる。素早く重ねた平たい筆致は、湯気が勢いよく立ち上る様をとらえている。
川端康雄(監修・著). 加藤明子(著). 2015-3-31. 『ウォーターハウス 夢幻絵画館』. 東京美術. p.43.

女性の首には蛇が巻かれ、左手には月形の鎌。
彼女が描く魔法円の近くにはどくろが埋まっています。


カラスにカエル(ヒキガエル)と、雰囲気満点の動物たちもいます。

引用元:『魔法円』
昔々、ウォーターハウスの絵が観たくて、時々ロンドンまで出掛けて行きました。
その度テイト・ギャラリー(現在のテート・ブリテン)で画集を買い込み、大変重たい思いをして持ち帰ったものです。
日本で日本語でこの『ウォーターハウス 夢幻絵画館』が出ているのを見つけた時は小躍りしそうになりましたね。
興味がある方はぜひお手に取ってご覧になってください。
解説も丁寧ですし、入手して損はしない一冊だと思います。
魔女キルケ
『オデュッセウスに杯を差し出すキルケ』( Circe Offering the Cup to Odysseus ) 1891年 ジョン・ウィリアム・ウォーターハウス オールダム美術館蔵

キルケとは古代ギリシアの長編叙事詩『オデュッセイア』に登場する魔女です。
キルケが差し出す飲み物を口にしてしまった男性は、豚やカエルなどの動物に姿を変えられてしまいます。
円形の鏡に映り込むのは船着き場、円柱、そしてオデュッセウス。
キルケは太陽神ヘリオスの娘ということですので、鏡が円形なのは「太陽」をイメージしているとの説もあります。

『嫉妬に燃えるキルケ』( Jealous Circe ) 1892年 ジョン・ウィリアム・ウォーターハウス 南オーストラリア美術館蔵

引用元:『嫉妬に燃えるキルケ』
恋するグラウコスに拒絶され、激昂するキルケ。
「恋敵」であるスキュラに呪いをかけるべく、スキュラが好んで水浴びをする入江の水に毒薬を注ぎ込み、呪文を唱えます。

嫉妬に燃え、ざわざわと波打つキルケの髪。
背景の木立と同じように直立する姿勢に、緑がかった衣装。そして妖しい色の毒薬。
彼女の足元には奇怪な姿の怪物がいます。
これは呪いの水を浴びた気の毒なスキュラということです。
『キルケ』(スケッチ)( Sketch of Circe ) 1911年-1914年 ジョン・ウィリアム・ウォーターハウス 個人蔵

引用元:『キルケのスケッチ』
『キルケ』(スケッチ)( Circe ) 1911年 ジョン・ウィリアム・ウォーターハウス 個人蔵

引用元:『キルケのスケッチ』
本作は”The Sorceress” の名でも呼ばれるかもしれません。
1891年、1892年にキルケを描いてから20年後、ウォーターハウスは再びキルケを描いています。
どちらのスケッチでもキルケは椅子に腰かけ、横を向いています。
何か新しい魔法でも考えているのでしょうか。
水晶球を覗き込む魔女
『水晶球』( The Crystal Ball ) 1902年 ジョン・ウィリアム・ウォーターハウス 個人蔵

引用元:『水晶球』
もの思いに耽る若い女性。ロマンティックな場面かと思ってよく見ると、テーブルの上にはどくろが…( ゚Д゚)。
どくろは「メメント・モリ(死を忘れるなかれ)」を意味する西洋絵画の伝統的なモティーフです。
この絵が単なる寓意画ではないとされるのは、女性のドレスにあしらわれている、とぐろを巻いた蛇であり、開かれた本にある魔術のシンボルの挿絵、そこには魔法使いが使う杖があるから。


このどくろは、1950年に本作を購入した人物が嫌ったことにより、塗り潰されてしまったそうです。
しかし1990年代になり、この作品が別の所有者の手に渡った後X線調査が行われ、どくろは復元されました。
『ウォーターハウス 夢幻絵画館』で「どくろが塗り潰された状態」の絵を見ることができます。
Amazonのサイトに移動します。
薬を調合する魔女
『イアソンとメディア』( Jason and Medea ) 1907年 ジョン・ウィリアム・ウォーターハウス 個人蔵

引用元:『イアソンとメディア』
メディアはキルケの姪に当たる、ギリシア神話に登場する魔女です。
フランスの画家ドラクロワは、メディアが、ふたりの間にできた子どもたちを殺害する場面を描いています。
ウォーターハウスの絵画では、
金毛羊皮を求めるアルゴナウタイの冒険譚のなかで、イアソンに恋したメデイアがイアソンのために魔法の薬を調合する場面が描かれている。メデイアの思いつめた表情には、父を裏切る苦悩と、恋する男に裏切られる予感も混じっているように見える。
川端康雄(監修・著). 加藤明子(著). 2015-3-31. 『ウォーターハウス 夢幻絵画館』. 東京美術. p.125.

薬を豪華な金のゴブレットに入れようとするメディアの思いつめた顔。
イアソンとの間に子どもたちをもうけるも、夫に裏切られ、復讐するという未来をも予感させます。
ジョン・ウィリアム・ウォーターハウス( John William Waterhouse, 1849年4月6日-1917年2月10日)

引用元:ウォーターハウス(写真)
現代の魔法使いといえばハリー・ポッター。
『ハリー・ポッターと魔法の歴史』(2021年~2022年)展では、テート・ブリテン所蔵の『魔法円』が来日していました。
貴重図書も多く展示されていて、とても興味深い催しでした。
ハリー・ポッター・シリーズ、単行本は場所を取りましたが文庫や電子書籍なら置いておきやすいですね(^^)。
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