画家ヴァン・ダイクの名が付いたレースとヒゲ(ヴァンダイク・ブラウンの項に追記しました)

両性花「ヘルマフロディトゥス」の名の由来

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雄しべと雌しべの両方を持つ「両性花」を、ラテン語では「ヘルマフロディトゥス」といいます。

神話に出てくる美貌の男性から取られた名です。

ルーヴル美術館にある「ヘルマフロディトゥス像」と、1500年代の絵画と一緒にご紹介します。

『眠れるヘルマフロディトゥス』 (『ボルケーゼのヘルマフロディトゥス』 Borghese Hermaphroditus ) ルーヴル美術館
『眠れるヘルマフロディトゥス』 (『ボルケーゼのヘルマフロディトゥス』 Borghese Hermaphroditus ) ルーヴル美術館

画像の上でクリックまたはタップすると大きい画像が出ます。また、画像の左下にある「引用元」のリンクをクリックしていただければ、元のファイルをご覧になることができます。「引用元」の表示が無いものは、この記事内に掲載したpublic domain の元ファイルから、解説のために必要な部分を拡大したものです。

目次

『眠れるヘルマフロディトゥス』 (『ボルケーゼのヘルマフロディトゥス』 Borghese Hermaphroditus ) ルーヴル美術館

『眠れるヘルマフロディトゥス』 (『ボルケーゼのヘルマフロディトゥス』 Borghese Hermaphroditus ) ルーヴル美術館
『眠れるヘルマフロディトゥス』 (『ボルケーゼのヘルマフロディトゥス』 Borghese Hermaphroditus ) ルーヴル美術館

引用元:『眠れるヘルマフロディトゥス』 Pierre-Yves Beaudouin CC-BY-SA-3.0

紀元前2世紀にアレクサンドリアで作られたこの「女性」像は、ローマ時代に作られたコピーです。

1608年、ローマのディオクレティアヌスの浴場付近で出土しました。

寝る姿を彫刻で表すというこの奇抜な作品は、背中を主観面としている。しかし、この作品の主要なモチーフは、前面にまわってはじめて理解される。ギリシャ末期の洗練された感覚は、官能的な陶酔も美術の表現の対象としたのである。マットと枕は17世紀の彫刻家ベルニーニの作。ローマ出土。紀元前2世紀後半のオリジナルによるローマ時代の模刻。大理石製。像の長さ148センチ。

(『NHKルーブル美術館 Ⅱ 日本放送出版協会 P71)

この像の前面に回って見ると、

『眠れるヘルマフロディトゥス』 (『ボルケーゼのヘルマフロディトゥス』 Borghese Hermaphroditus ) ルーヴル美術館
『眠れるヘルマフロディトゥス』 (『ボルケーゼのヘルマフロディトゥス』) ルーヴル美術館

引用元:ヘルマフロディトゥス Marie-Lan Nguyen

乳房がありますね。

しかし、反対側から見てみると、

『眠れるヘルマフロディトゥス』 (『ボルケーゼのヘルマフロディトゥス』 Borghese Hermaphroditus ) ルーヴル美術館
『眠れるヘルマフロディトゥス』 (『ボルケーゼのヘルマフロディトゥス』) ルーヴル美術館

引用元:ヘルマフロディトゥス Marie-Lan Nguyen

男性の性器も有る「両性具有」の像であることがわかります。

この像の名前はラテン語で、Hermaphroditus。

日本語では「ヘルマフロディトゥス」、または「ヘルマプロディートス」などとも表記されます。

この像の艶めかしさ、美しさ。

ヘルマフロディトゥスは元々「男性」でした。

ギリシャ神話では、ヘルマフロディトゥスは美の女神アフロディテと伝令の神ヘルメスの息子なのです。

しかし、母譲りの美貌が仇となり、ニンフのサルマキスに恋されて、強引に迫られてしまうのです。

ヘルマフロディトゥスはサルマキスと合体してしまい、男女両性を兼ねそなえた存在になってしまいました。

両性花をラテン語で言うと「ヘルマフロディトゥス」

『植物学のたのしみ』にこのような記述があります。

多くの花には、雄しべと雌しべの両方がそろっている。両性花、ラテン語では、男神「ヘルメス」と美の女神「アフロディーテ」を兼ね備えた花という意味で「ヘルマフロディトゥス」という。両性花は、自家受粉といって、ひとつの花の中で受精をすませることができる。しかし、植物でもこうした近親結婚を避ける傾向がある。多くの両性花は他家受粉で、同一花や同じ固体からでなく、他の固体からの花粉によって受精する仕組みが発達している。さらに雄しべと雌しべが別々の花をつくる単性花もある。

(『植物学のたのしみ』 大場秀章(著) 八坂書房 P96) 

ヘルメスとアフロディテの名前が合体しています。

男性性と女性性を併せ持つ両性花を「ヘルマフロディトゥス」というのですね。

ルーヴル美術館にあるヘルマフロディトゥス像の「枕とマット」

1619年、シピオーネ・ボルケーゼ枢機卿は天才彫刻家ベルニーニに命じて、この彫刻が横たわるマットレスと枕を作らせました。

シピオーネ・ボルゲーゼ(1577年9月1日 – 1633年10月2日) 1632年 ベルニーニ作 ボルケーゼ美術館蔵
シピオーネ・ボルゲーゼ(1577年9月1日 – 1633年10月2日) 1632年 ベルニーニ作 ボルケーゼ美術館蔵

引用元:枢機卿シピオーネ・ボルゲーゼボルケーゼ美術館蔵 _ Sailko _ CC-BY-3.0

ジャン・ロレンツォ・ベルニーニの自画像 1623年頃
ジャン・ロレンツォ・ベルニーニの自画像 1623年頃

引用元:ベルニーニ自画像

ベルニーニが制作したと思うと、急に枕とマットが神々しく見えてきます。

ヘレニズム美術とバロック美術の、時空を超えたコラボレーションですね。 

「第3の性」

『pen』(2015 No.528)では、このルーヴル美術館のヘルマフロディトゥス(ヘルマフロディトスと表記)について、

 ヘルマフロディトスはヘルメスとヴィーナスの子で両性具有。初め男だったが、ニンフのサルマキスが彼に恋をし、抱きついたところ身体が合一したとされる。もともと人間には男と女のほかに、第3の性があると考えられ、第3の性はギリシャ語でアンドロギュヌスと呼ばれていた。2つの性のパワーを備えたアンドロギュヌスを脅威に感じたゼウスは、彼らを男女に切り離す。男女が求め合うのはそのためだとされている。

両性具有の神話は中世の錬金術師やネオ・プラトニズムと関係する。錬金術とは、本来の完全なる金が劣化・分裂してさまざまな金属に分かれたのを元に戻そうという思想。人間も男女合一だったが分かれてしまったので、元の完全な人間に戻そうというわけだ。ただ錬金術が望む完全な人間とは、両性具有ではなく不老不死だった。

(『pen』(2015 No.528) P105)

不老不死と両性具有では少々?違うように思えますが、男女が求め合う理由はナルホドという気がします。 

『サルマキスとヘルマプロディートス』( The Metamorphosis of Hermaphrodite and Salmacis ) 1516年頃 ヤン・ホッサールト

『サルマキスとヘルマプロディートス』 1516年頃 ヤン・ホッサールト  ボイマンス・ヴァン・ベーニンゲン美術館所蔵
『サルマキスとヘルマプロディートス』 1516年頃 ヤン・ホッサールト  ボイマンス・ヴァン・ベーニンゲン美術館所蔵

引用元:『サルマキスとヘルマプロディートス』

首を絞めているようにしか見えませんが、強引に迫っている図です。

『サルマキスとヘルマプロディートス』( Hermaphroditus and Salmacis ) 1580年頃 バルトロメウス・スプランヘル

『サルマキスとヘルマプロディートス』 1580年頃 バルトロメウス・スプランヘル 美術史美術館蔵
『サルマキスとヘルマプロディートス』 1580年頃 バルトロメウス・スプランヘル 美術史美術館蔵

引用元:『サルマキスとヘルマプロディートス』

こちらは、お尻の窪みと脱ぎかけたサンダルに強い意思を感じます。

上気しているのか、いくらか赤味を感じるサルマキスの肌。

身の捩り方が、なんともセクシーですね。

ヘルマフロディトゥスはサルマキスに気付かず、無防備にくつろいでいます。

主な参考文献
  • 『NHKルーブル美術館 Ⅱ 日本放送出版協会
  • 『植物学のたのしみ』 大場秀章(著) 八坂書房
  • 『pen』(2015 No.528)
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コメント

コメント一覧 (10件)

  • sakumana (id:sakura_marina)様
    コメント有難うございました。
    紀元前にこんな彫刻をつくった古代ギリシャ人、それをコピーした古代ローマ人の美的センス、その技術が素晴らしいですね。背中やお尻が本当にやわらかそうですよね。
    また、とても嬉しいお言葉を有難うございます。身に余る光栄とは正にこのことです。
    美術館にお出掛けされる時は感染防止をしっかりとなさってくださいね。
    年内にこのブログは他所へ移行する予定で、現在、もうひとつのブログから美術ものに関する記事をこちらに移動させています。そのなかにエリザベス1世の肖像画のブローチに関するもの(「ペリカン・ポートレート」「フェニックス・ポートレート」)もあるのですが、書き足しが終わり次第投稿します。
    またお付き合いいただければとても嬉しいです。
    有難うございました。

  • ハンナさん、こんばんは。
    彫刻。冷たく固い素材のはずなのに、こんなにも柔らかで滑らかな曲線を描ける、すごい技術だな・・と思います。
    体の造形に対する審美眼、対象に同化するかのような、集中力が強かったのかなと感じました。
    最近、通勤途中の駅に「名画で読み解く 英国王室物語」の展示会を開催しているとポスターが張ってありました。
    上野の森美術館で、ちょっと遠いのですが、ハンナさんの記事を拝読してきて、興味が湧いてきたので行ってみようかなと思っております(*^^*)

  • うり まさる (id:urimasaru)様
    コメント有難うございます。
    確かに美しい曲線ですよねえ。紀元前のギリシャに作られ、ローマ時代にコピーされたものですが、この時代の美的センスも素晴らしいと思います。
    今回も見て下さって有難うございました。

  • schun (id:schunchi2007)様
    そうなんです。さっすが天才ベルニーニ。何を作っても上手です。
    書籍のなかには、「ふとんをつくらされるなんて」とありましたが、命令ですしね。でも天才なのでパトロンの希望通りのものを作ったのではないでしょうか。
    見て下さって有難うございました。

  • 森下礼 (id:iirei)様
    今回も有難うございます。
    現在せっせと別ブログの過去記事を移動させております。
    「ヘルマフロディトス」、最初は勉強していなかったせいで、現地で見た時「綺麗なお姉さんが寝ている彫刻」にしか見えませんでした(20歳)。その後、意味がわかってちゃんと前も背面も観るようにしました(笑)。

  • くろいぬ (id:suburikuroinu)様
    期待を裏切らないコメントを有難うございます(笑)。
    でも逃げないであげてください(笑)。

  • 曲線はどうやったら作れるのでしょうΣ(゚Д゚)
    すご✨✨

  • おはようございます。
    マットレスのリアル感すごいですね!!
    当時のマットレスの感じがよく出ていて、
    彫刻のリアル感すごいなぁ~って
    拝見しながら感心しておりました。
    両性の彫刻ってのも初めてみました。
    こういう彫刻もあるんですね。
    ホントびっくりすることばかりでした(笑)。

  • これは懐かしいですね。サルマキスとの合体の意味、意味深ですよね。セックス後に寛ぐ一般的な男女も、「ヘルマフロディトス」なんでしょう。
    私の記事を紹介してくださったのも、「ヘルマフロディトス」でしたね。その際は、お世話になりました。

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