邪気には桃を。(18世紀・雍正帝時代の絵皿)

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桃は美味しく、しかも邪気をも遠ざける。

粉彩八桃文盤 中国 景徳鎮 清・雍正銘 松岡美術館蔵
粉彩八桃文盤 中国 景徳鎮 清・雍正銘 松岡美術館蔵
目次

美味しいだけじゃない!桃

桃って美味しいだけではなく、邪気にも効くようなんです。

桃は中華料理で使われるお皿にもよく描かれていますし、桃をかたどったお饅頭やお菓子もありますよね。

『西遊記』では孫悟空が西王母の桃を食べていました。(美味しそうでした)

蟠桃
蟠桃

引用元:蟠桃 CC-BY-3.0

孫悟空は、道教の女神である西王母が天界で育てている桃「バントウ(蟠桃)」を盗み食い。

桃は、長寿を象徴する果実とされてきた。それは神仙女神の西王母せいおうぼ蟠桃ばんとうが、三千年に一度実を結び、これを食べると長生が得られるという伝説によっている。

『シルクロード 華麗なる植物文様の世界』 山川出版社 p.81.

下の素敵な絵皿は松岡美術館の収蔵品です。

粉彩八桃文盤 中国 景徳鎮 清・雍正銘 松岡美術館蔵
粉彩八桃文盤 中国 景徳鎮 清・雍正銘 松岡美術館蔵
粉彩八桃文盤(裏) 中国 景徳鎮 清・雍正銘 松岡美術館蔵
粉彩八桃文盤(裏) 中国 景徳鎮 清・雍正銘 松岡美術館蔵

引用元:粉彩八桃文盤 中国 景徳鎮 清・雍正銘 松岡美術館蔵 Daderot CC-Zero

引用元:粉彩八桃文盤(裏) 中国 景徳鎮 清・雍正銘 松岡美術館蔵 Daderot CC-Zero

下方に描かれた枝が、まるで裏面(上方)にまで伸びているようですね。 繋がっているみたいです。

『シルクロード 華麗なる植物文様の世界』に、この松岡美術館所蔵の「粉彩八桃文盤 一対 中国 景徳鎮窯 清・雍正銘 松岡美術館蔵 各径20.5」の解説があります。

清時代の雍正官窯でつくられた気品漂う粉彩の皿一対である。高台脇から桃の幹がうつわの表に伸び、たわわに実った桃と花を丁寧な筆使いで写実的に描く。またうつわの表と裏には、合わせて五匹の蝙蝠を描く。桃は長寿の象徴であり、蝙蝠は幸福を寓意する。白磁の肌も美しく、雍正粉彩の精品である。

『シルクロード 華麗なる植物文様の世界』. 山川出版社.

桃柄は飾っても可愛いですね。 

正帝の時代の絵皿(1723-1735) 上海博物館蔵
正帝の時代の絵皿(1723-1735) 上海博物館蔵

引用元:雍正帝の時代の絵皿 G41rn8 CC-BY-SA-4.0

邪気を遠ざける 

『ものと人間の文化史157 桃』(政大学出版局)の「薬用とされる桃の部位」では、 

今からはるか6000年ものむかしの人びとが、中国からはるばるわが国へと海を渡って来たとき桃をもっていた理由は、桃の実の食糧としての価値と、煩わしい病を癒す薬として使えるという大きな二つの利用面を持っていたからだと考えられる。

『ものと人間の文化史157 桃』. p.197.

中国の思想では桃は邪気(病気などを起こす悪い気、悪気、もののけ)つまり邪気(たたりをする邪悪な鬼)を払うとされており、人は邪気にとりつかれると病気になると思われていた。桃の長い歴史をもつ中国では、思想上からも呪術として桃が用いられていたが、実際の医療に用いる薬として、漢方薬の薬種としても重要なものとされてきた。なお、古代では呪術もまた医療行為の一つであった。『広辞苑』によれば呪術とは、自然をはるかに超えた存在や神秘的な力にはたらきかけて、いろいろな目的を達成しようとする意図的な行為だとされている。

『ものと人間の文化史157 桃』. p.197.

日本では『桃太郎』が桃から生まれていますよね。邪気を払う、善いもののイメージなのでしょうか。

感動の桃太郎誕生シーン(愛知県の桃太郎神社)
感動の桃太郎誕生シーン(愛知県の桃太郎神社)

引用元:感動の桃太郎誕生シーン(愛知県の桃太郎神社) Nao Iizuka   CC-BY-2.0

一度は行ってみたいです。 元気が出そうですよね( ̄▽ ̄)。

『古事記』での桃

『古事記』でも桃が登場。

伊邪那岐命(いざなぎのみこと)が、亡くなった妻、伊邪那美(いざなみ)神に逢いに、黄泉(よみの)国に向かいます。

現世に還るため、伊邪那美神は黄泉神(よもつかみ)のところへ相談に行くのですが、その際、伊邪那岐命は「決して伊邪那美神の姿を見てはいけない」と言われます。 

それにも関わらず、伊邪那岐命は伊邪那美神の姿を見てしまいました。

腐敗し、蛆にたかられた彼女の姿に恐れをなして逃げる彼を、黄泉醜女(よもつしこめ)が追いかけます。

『古事記』で、伊邪那岐命が黄泉の国から逃げ帰るとき、追いかけてくる黄泉醜女にエビカズラとタケノコを投げ与え、最後に桃の実で黄泉の国の軍勢を追い払ったことも、中国の思想である桃の威力を示す呪術であったといえよう。なにしろ伊邪那岐命は、桃の実で黄泉の国へと拉致されずに、無事にこの世界へと帰還することができたのだから、医療というにはおおげさだが、邪悪なものから桃の持つ呪力によって逃げることのできた一種の救済措置であったことはたしかである。

『ものと人間の文化史157 桃』

そして、桃が薬用とされる部分として、その果実を挙げ、 

果実も、果肉の部分(桃子とうしという)と種子の中にあるじん桃仁とうじんという)の部分が使われる。 花(桃花とうかという)、葉っぱ(桃葉とうようという)、若い枝(桃枝とうしという)、根の皮(桃根とうこんという)、樹皮から分泌する樹脂(桃膠とうこうという)が薬用となる。 いいかえれば、幹の部分が用いられないだけで、あとは全部薬となる。幹の部分は呪術の桃府とうふとして、邪悪な鬼を追い払うことに使われているので、これを含めれば桃のすべてが薬となる。

『ものと人間の文化史157 桃』

美味しいだけじゃなく、桃ってすごいんですね。

弥生時代の遺跡から桃の種子が発見されていて、当時の人々も食用にしていたそうですが、桃の実はあまり美味しいものではなかったそうです。

でも、それはそれで、どんなんだか興味あります。

2013/03/26 12:43 byHanna
by Hanna, March, 2013
主な参考文献
  • 『シルクロード 華麗なる植物文様の世界』 山川出版社
  • 『ものと人間の文化史157 桃』 有岡利幸(著) 法政大学出版局
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