ツタンカーメン王の頭にあるもの。この被り物にもちゃんと「ヘムヘム」という名前が付いています。
エジプト考古学博物館にある黄金の玉座には、このヘムヘムを着けたアンケセナーメンが夫の身体に香油を塗る姿が描かれています。仲睦まじい様子と仕草に見えますが、『エジプト神話の図象学』ではこの様子を「恋しあう若い二人の語らい」などというものではない」とあります。
黄金の玉座 エジプト考古学博物館
古代エジプトのファラオ・ツタンカーメンの副葬品のひとつ、「黄金の玉座」。
一度座ってみたいですよね。
椅子の背に描かれたツタンカーメン夫妻、2人とも片方ずつサンダルを履いて、とても仲が良さそう。
妻であるアンケセナーメンが夫の体に香油を塗っています。実に微笑ましい図です。
ツタンカーメンとアンケセナーメンは頭になにか被っていますね。
それ、ヘムヘムという被り物です。
ヘムヘムとは
引用元:ヘムヘムを被っている図 Rémih CC-BY-SA-3.0-migrated CC-BY-SA-2.5,2.0,1.0
こういうヘッドギア、被り物をヘムヘム(英語では Hemhem crown)といいます。
これを最初に見たとき、「頭になんか生えてる!」と思ってしまいました。
ヘムヘム生えて…いや、被ってます。
引用元:おそらくハルポクラテス
ハルポクラテスとは、古代エジプトのホルス神をギリシア風にした、古代ギリシャ神話の「沈黙の神」です。
子どもの姿で表されていますね。
玉座のツタンカーメンや壁画より、ヘムヘムを着けた様子がわかり易いです。
『エジプト神話の図象学』(河出書房新社)
『エジプト神話の図象学』(河出書房新社)では、太陽の冠ヘムヘムは、王の葬祭では「死者の復活を示すために使われる」と述べられています。
さらに、このヘムヘムを被ったツタンカーメン夫妻が、黄金の玉座で仲良く香油を塗り塗られている姿を、「恋し合うふたりの語らい」ではないのだとも。
王の葬祭では、このヘムヘムは死者の復活を示すために使われる。
それゆえ、《ツタンカーメンの玉座》とされるものの背もたせを眺めるとき、そこには座ってヘムヘムをかぶった年若い王がその若い寡婦アンクエス=エン=アモン ― そのかつらの上には女神ソティスの二本の長い羽根がある ― から香油を塗ってもらっているが、これは解説者たちの詩的分析にあるような《恋しあう若い二人の語らい》などというものではないのである。この光景には、魔術的なしぐさで、死者が新しい太陽として再生できるようにする〈寡婦〉(イシス=ソティスの役割を演じている)の行為を、みなければならないのである。葬祭にかかわる場にあって、われわれはここでは、〈ソティス星が日の出直前に昇ること〉の、生彩あると同時にきわめて詩的な一表現を前にしているのである。
クリスチアヌ・デローシュ=ノブルクール(著). 小宮正弘(訳). 『エジプト神話の図象学』. 河出書房新社. . p.118.
…なんかわかりづらいのですが、とにかくこの夫妻の図は、単純にロマンティックなものではない、ということですね。
「《恋しあう若い二人の語らい》などというものではないのである。この光景には、魔術的なしぐさで、死者が新しい太陽として再生できるようにする〈寡婦〉の行為を、みなければならないのである。」
日本語が実に難解です。
以前別の本を読んだ時は「仲睦まじかった二人」を印象付けるような記述があったように思います。
しかし、それは著者が言うところの、解説者による「詩的分析」だったのでしょうか。
ちょっと夢が壊れました…。
豊穣の女神ソティス(ソプデト)の姿
記述に登場する女神ソティスはソプデトともいい、豊穣の女神で、同じく豊穣の女神イシスがソティスの起源のようです。
下の画像は1903年に制作されたもののようですが、線画なので女神の被り物が、よりわかり易いかと思います。
黄金の玉座
引用元:黄金の玉座(レプリカ) Jl FilpoC CC-BY-SA-4.0
例え「《恋しあう若い二人の語らい》などというものではない」としても、この素晴らしい工芸品としての玉座。
掲載した画像のものはレプリカですが、『エジプト神話の図象学』(p.118.) の解説には、「木製金箔貼り、ガラスの練り物の象嵌」でできている、とあります。
更に、衣服は銀でできているそうです。
目が眩みますね。
古代にこのようなすごいものを作っていたとはと改めて思います。
この玉座の作者の人生に思いを馳せるのも、また浪漫であるような気がします。
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