18世紀の古代ブーム ジョゼフ=マリー・ヴィアンの『キューピッド売り』

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古代を舞台にした美しい絵を描いた、ジョゼフ=マリー・ヴィアン。

活きのいいキューピッドが売り物になっている『キューピッド売り』を、それをもとにした版画と一緒にご紹介します。

『キューピッド売り』 1763年 ジョゼフ=マリー・ヴィアン 高さ98×幅122㎝ フォンテーヌブロー城国立美術館蔵
『キューピッド売り』 1763年 ジョゼフ=マリー・ヴィアン 高さ98×幅122㎝ フォンテーヌブロー城国立美術館蔵

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目次

『キューピッド売り』( La Marchande d’Amours ) 1763年 ジョゼフ=マリー・ヴィアン

『キューピッド売り』 1763年 ジョゼフ=マリー・ヴィアン 高さ98×幅122㎝ フォンテーヌブロー城国立美術館蔵
『キューピッド売り』 1763年 ジョゼフ=マリー・ヴィアン 高さ98×幅122㎝ フォンテーヌブロー城国立美術館蔵

引用元:『キューピッド売り』

「こちらはいかがでしょうか」とキューピッドをつまみ上げて、奥様に見せるキューピッド売り。

傍らのカゴには他にもキューピッドが入っています。

奥様、なにかキューピッドが必要なご事情でも…?と思ってしまいますよね。

いや、そもそもキューピッドって売り物だっけ…。

その前に、キューピッドって実在するのか?

捕獲できるのか?

と若干疑問が飛び交いますが、まぁいいか。綺麗だから。興味深そうに覗き込んでいる控えの女性の表情も良いことだし。

上はフランスの画家、ヴィアンの『キューピッド売り』(英語では『The Cupid Seller』)ですが、このロマンティックな絵にはもとになった古代ローマ時代の壁画がありまして、

Venditrice di amorini 1世紀 フレスコ画 高さ117×幅140㎝ ナポリ国立考古学博物館蔵
Venditrice di amorini 1世紀 フレスコ画 高さ117×幅140㎝ ナポリ国立考古学博物館蔵

引用元:フレスコ画 Mentnafunangann

農家のおかみさんっぽい女性が、鶏でもつかむようにキューピッドの羽根をぐっとつかみ、品定めする女性客に見せています。

檻みたいなカゴには捕まったキューピッド。諦めモード?

女性客の膝近くには彼女を見上げるキューピッドもいます。

これはどう解釈すべきなのでしょうか。

私には「僕を選んで」と言うようにどこか媚びて見えますが、もしかしたら「先住猫」のような「先住キューピッド」だったりして…。

” Seller of Loves ” by Carlo Nolli (1762)

Seller of Loves 1762年 Carlo Nolli
Seller of Loves 1762年 Carlo Nolli

引用元:Seller of Loves

イタリア人の画家で版画家、Carlo Nolli(1752年-1770年)の作品「Seller of Loves」です。

18世紀の書籍「The Le Antichità di Ercolano Esposte (Antiquities of Herculaneum Exposed)」に掲載されているもののようです。

1762年とありますので、ヴィアンの作品より前ですね。

Wikipedia のヴィアンの作品の 解説欄に、「A woman is selling cupids. After Seller of Loves by Carlo Nolli, an engraving in Le Antichità di Ercolano (1762)」(女性がキューピッドを売っている。『Le Antichità di Ercolano』(1762年)掲載の Carlo Nolli のエングレーヴィング、『Seller of Loves』にちなむ」とありました。

ヴィアンはこちらを参考にした?

関連書籍等見つかりましたら、また追記します。

” The Cupid Seller ” by Jacques Firmin Beauvarlet

ヴィアンの絵に基づく銅版画(版画家 Jacques Firmin Beauvarlet) 18世紀
ヴィアンの絵に基づく銅版画(版画家 Jacques Firmin Beauvarlet) 18世紀

引用元:ヴィアンの絵に基づく銅版画 18世紀

この絵が描かれた1760年代とは

1760年代のフランスはルイ15世の治世、官能性に満ちたロココ文化のただ中でした。

1700年代前半に、ヘルクラネウムやポンペイなどの古代ローマ時代の遺跡が発掘され、フランスに「古代ブーム」が起きます。

荘厳なバロックや退廃的で官能的なロココとは異なる、古代ギリシアやローマの美術を模範とする「新古典様式」が登場します。

『名画の謎 対決篇』 中野京子(著) 文春文庫

中野京子氏の『名画の謎 対決篇』にヴィアンの『キューピッド売り』が紹介されています。

ヴィアンのキューピッドがしているアブナイ仕草にも言及しておられますが、よく気が付かれたなと思いました。

確かにキューピッドの人相もあまりよろしくない…。

こぶしを握った左腕を曲げ、そのひじに右手を置くという仕草はとてつもなく下品で卑猥なもの、とありますが、私も映画で見たことがありますし、海外にいたときも見たことがあります。

その仕草、この絵が描かれた18世紀後半には、もうあったんだーとオドロキです。

このエロティックな作品は、ヴィアンのオリジナルではない。そっくり同じ構図のフレスコ画が古代ローマ遺跡から発掘され、まもなく銅版画に写され、カタログとなってフランスへ流入したのだ。ヴィアンはそのアイディアを拝借して現代風に書き直した。ただしキューピッドのワイルドな仕草だけは、オリジナル作品には無かったもの。さすがルイ十五世時代の淫靡(いんび)なロココにふさわしいというべきか。

中野京子(著). 2018. 『名画の謎 対決篇』. 文春文庫. 文藝春秋.p.55.

仕草の歴史も調べてみると楽しいかもしれませんね。私も勉強します。

中野氏の著書を拝読して、キレイでユーモアのある絵だと思っていた『キューピッド売り』がとってもエロティックなものに見えてきました。

当時のロココ人たちはこうした絵画が大好きだったのでしょうね。

私も大好きです。

サブタイトルだけ見て「決闘!?」「戦史?」と思ってしまいましたが、「この絵とあの絵の比較」でした。本当に博識で、解説もわかり易いです。

ジョゼフ=マリー・ヴィアン( Joseph-Marie Vien, 1716年6月18日-1809年3月27日)

ジョゼフ=マリー・ヴィアン像 Louis-Pierre Deseine 作 1787年 ファーブル美術館蔵
ジョゼフ=マリー・ヴィアン像 Louis-Pierre Deseine 作 1787年 ファーブル美術館蔵

引用元:ジョゼフ=マリー・ヴィアン像 Finoskov CC-PD-Mark PD-old-100-expired CC-BY-SA-4.0

フランス、モンペリエに生まれたジョゼフ=マリー・ヴィアンは、ロココというより「新古典主義」の画家として知られています。

1789年に国王ルイ16世の筆頭宮廷画家となりましたが、同年1789年7月にフランス革命が起きます。

その後ナポレオン・ボナパルトに厚遇され、伯爵位を得ました。

弟子に『サン=ベルナール峠を越えるボナパルト』を描いたジャック=ルイ・ダヴィッドがいます。

『サン=ベルナール峠を越えるボナパルト』 1801年 ダヴィッド マルメゾン城所蔵
『サン=ベルナール峠を越えるボナパルト』 1801年 ダヴィッド マルメゾン城所蔵

引用元:『サン=ベルナール峠を越えるボナパルト』

デュ・バリー夫人の居城を飾ったヴィアンの絵画(【HANNAの書庫】で掲載)

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