かつてヴェルサイユ宮殿に置かれていた女神像『ヴェルサイユのディアナ』(または『ヴェルサイユのアルテミス』)をご紹介します。
『ヴェルサイユのディアナ』( Diane de Versailles ) 125年-150年頃 ルーヴル美術館蔵
シュリー翼348展示室 , MR 152 ; N 1157 ; Ma 589 Diane de Versailles
「獲物発見!」
お供の鹿をつれた女神の狩りの場面です。
1556年に時の教皇からこの像を贈られたのは、フランス王アンリ2世でした。
アンリ2世の寵姫はディアーヌ・ド・ポワチエ( Diane de Poitiers, 1499年-1566年)といい、女神ディアナの名とかけていた?ようです。(書籍によっては「アルテミス」となっていると思いますが、ギリシャ神話のアルテミスとローマ神話のディアナは同一視されます)
引用元:ディアーヌ・ド・ポワチエ
女神像はフォンテーヌブロー城に飾られました。
1602年国王アンリ4世がこの像をルーヴル宮殿に移し、1696年にルイ14世によってヴェルサイユ宮殿の鏡の間に設置。
このことから本作は「「ヴェルサイユの」ディアナ」と呼ばれます。
『狩りの女神ディアナ』( Diane chasseresse ) 1550年代 フォンテーヌブロー派
アンリ2世の愛人ディアーヌがモデルとされる、フォンテーヌブロー派の『狩りの女神ディアナ』です。
引用元:『狩りの女神ディアナ』
『ディアナの噴水』( Diane appuyée sur un cerf ) 16世紀
こちらも鹿と一緒の女神ディアナ。
アンリ2世がディアーヌのために建てたアネ城の噴水彫刻です。
引用元:『ディアナの噴水』 Nathanael Burton CC-BY-SA-2.0
リシュリュー翼241展示室 , MR 1581 ; N 15107 ; N 15108 ; N 15109v Diane appuyée sur un cerf
『狩りのディアナ』( Statuette : Diane chasseresse ) 17世紀
ブロンズ製の『ヴェルサイユのディアナ』はシュリー翼603展示室にあります。
引用元:『狩りのディアナ』 Nathanael Burton Flickr images reviewed by FlickreviewR CC-BY-SA-2.0
シュリー翼603展示室 , OA 5084 Statuette : Diane chasseresse
ユベール・ロベールの絵画の中の『ヴェルサイユのディアナ』
見覚えがある像がありますねー。
フランスの画家ユベール・ロベール( Hubert Robert, 1733 ‐ 1808)による、1802年ー1803年頃のルーヴル美術館内( The Salle des Saisons( = Room of the Seasons ))の様子です。
引用元:La Salle des Saisons au Louvre, en 1802-1803 Tangopaso
シュリー翼930展示室 , RF 1964 35 La Salle des Saisons au Louvre, en 1802-1803
レオカレスの作品『ベルヴェデーレのアポロン』
『ヴェルサイユのディアナ』のオリジナルは青銅製。
作者は紀元前4世紀頃の古代ギリシャの彫刻家、レオカレス( Leochares )と言われています。
『ベルヴェデーレのアポロン』もレオカレスの作品と言われています。
引用元:ベルヴェデーレのアポロン Livioandronico2013 CC-BY-SA-4.0
『ヴェルサイユのディアナ』の「キトン」
引用元:『ヴェルサイユのディアナ』 Flickr images reviewed by FlickreviewR 2 TimeTravelRome CC-BY-2.0
森を駆け巡る凛々しい女神。
ミニスカートが印象的です。
引用元:『ヴェルサイユのディアナ』 Marie-Lan Nguyen (2007)
引用元:『ヴェルサイユのディアナ』 Marie-Lan Nguyen (2010) CC-BY-3.0
引用元:『ヴェルサイユのディアナ』 Jastrow (2007)
引用元:『ヴェルサイユのディアナ』 Jastrow (2007)
引用元:『ヴェルサイユのディアナ』 https://www.flickr.com/photos/8283439@N04/16906184195/ Amaury Laporte CC-BY-2.0
女神の衣服は古代ギリシャの人々が着ていたキトン(χιτών)です。(ルーヴル美術館の解説欄には「 chitôn 」。英語の綴りは「 chiton 」)
キトンは「ドーリア式」と「イオニア式」に分けられます。
ドーリア式キトン(ぺプロス)は、ウールまたはリネンの大きな一枚布で身体に巻き付けて着ます。
脇は縫わず、開いた状態。
肩はブローチで留めます。
ウエストは紐で締め、丈を調節しました。
軍人や猟師たちは丈を短くしていましたが、儀式の際は男性も長いキトンを纏いました。
女性の場合は大抵足首まで長さがあったそうです。
引用元:ドーリア式キトンの着方
『世界服飾史』(美術出版社)から一部引用しますと、ドーリア人が着た典型的なピプロスについて、
およそ肘から肘の長さの二倍の布を二つ折りにして体をはさみ, 肩をピンで留める. 布の上端は折り返され, その上から腰で帯を締める. 左腕の下では布が輪になり, 右腕の側では折り返しが切ったままになる, という衣服である.
深井晃子(監修). 『世界服飾史』. 2010-4-15. 増補新装初版. 美術出版社. p.15.
と書かれています。着方をイメージし易いですね。
また、ディアナはキトンの上に、「ヒマティオン」という上着(マント)も身に着けています。(ルーヴル美術館の解説欄には「 himation 」、英語の綴りも「 himation 」)。
ヒマティオンは厚手のウールでできた長方形の布で、古代ローマで着られたトーガ(トガ)の原型になりました。
ショールのように身体に巻き付けたり、ヴェールのように頭から被ったり、利用の仕方は多岐にわたります。
引用元:『ヴェルサイユのディアナ』 Uploaded by Marcus Cyron Photographs by Carole CC-BY-SA-2.0
勢いのある襞の流れが良いですね。現代でも違和感なく着用できそうです。
『世界服飾史のすべてがわかる本』(ナツメ社)では一枚布を折り返して着用する様子、キトンの肩を留める「フィビュラ」と呼ばれるブローチも見ることができます。ヒマティオンについても解説があります。
『ヴェルサイユのディアナ』が展示されているシュリー翼348展示室では、『ヘルマフロディトゥス像』『ヴィーナスとエロス』『三美神』などのボルケーゼ・コレクションの古代彫刻を見ることができます。
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