色大理石を使った彫刻、バリアスの『科学の前にヴェールを脱ぐ自然』

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カラフルなドレスが目を引く、大理石の女性像。フランスの彫刻家ルイ=エルネスト・バリアスの作品、『科学の前にヴェールを脱ぐ自然』です。

『科学の前にヴェールを脱ぐ自然』( La Nature se dévoilant à la Science ) 1899年 ルイ=エルネスト・バリアス オルセー美術館蔵
『科学の前にヴェールを脱ぐ自然』( La Nature se dévoilant à la Science ) 1899年 ルイ=エルネスト・バリアス オルセー美術館蔵
目次

『科学の前にヴェールを脱ぐ自然』( La Nature se dévoilant à la Science ) 1899年 ルイ=エルネスト・バリアス オルセー美術館蔵

『科学の前にヴェールを脱ぐ自然』( La Nature se dévoilant à la Science ) 1899年 ルイ=エルネスト・バリアス オルセー美術館蔵
『科学の前にヴェールを脱ぐ自然』 1899年 ルイ=エルネスト・バリアス オルセー美術館蔵

引用元:『科学の前にヴェールを脱ぐ自然』 Sailko CC-BY-3.0

なんと美しい柄のドレスなのでしょうか。

ドレスには色大理石が使われていますが、Wikipediaによるとガウンはアルジェリアのオニキス、胸のスカラベはマラカイト(孔雀石)でできているのだそうです。

英語のタイトルは『 Nature Unveiling Herself Before Science 』と記されています。

科学の前に、真実の姿、はだかの姿を現す「自然」の寓意像です。

この彫刻の高さは 200 ㎝。

女性の曲線、ヴェールのふんわり感にアール・ヌーヴォーっぽさを感じますね。

『科学の前にヴェールを脱ぐ自然』( La Nature se dévoilant à la Science ) 1899年 ルイ=エルネスト・バリアス オルセー美術館蔵
『科学の前にヴェールを脱ぐ自然』 ルイ=エルネスト・バリアス

引用元:『科学の前にヴェールを脱ぐ自然』 emilee rader CC-BY-SA-2.0

他美術館にもバリアスによる別ヴァージョンの像があります。

色大理石のドレスの美しさ

『科学の前にヴェールを脱ぐ自然』( La Nature se dévoilant à la Science ) 1899年 ルイ=エルネスト・バリアス オルセー美術館蔵
『科学の前にヴェールを脱ぐ自然』 ルイ=エルネスト・バリアス

引用元:腰まわり emilee rader CC-BY-SA-2.0

腰周り。素材の模様がレースみたい。

『科学の前にヴェールを脱ぐ自然』( La Nature se dévoilant à la Science ) 1899年 ルイ=エルネスト・バリアス オルセー美術館蔵
『科学の前にヴェールを脱ぐ自然』 ルイ=エルネスト・バリアス

引用元:下半身 Ibex73 CC-BY-SA-4.0

柄がモダンです。若干サイケ?

『科学の前にヴェールを脱ぐ自然』( La Nature se dévoilant à la Science ) 1899年 ルイ=エルネスト・バリアス オルセー美術館蔵
『科学の前にヴェールを脱ぐ自然』 ルイ=エルネスト・バリアス

引用元:足元 正面 Ibex73 CC-BY-SA-4.0

『科学の前にヴェールを脱ぐ自然』( La Nature se dévoilant à la Science ) 1899年 ルイ=エルネスト・バリアス オルセー美術館蔵
『科学の前にヴェールを脱ぐ自然』 ルイ=エルネスト・バリアス

引用元:足元 emilee rader CC-BY-SA-2.0

『科学の前にヴェールを脱ぐ自然』( La Nature se dévoilant à la Science ) 1899年 ルイ=エルネスト・バリアス オルセー美術館蔵
『科学の前にヴェールを脱ぐ自然』 ルイ=エルネスト・バリアス

引用元:横から見た図 Ibex73 CC-BY-SA-4.0

『科学の前にヴェールを脱ぐ自然』( La Nature se dévoilant à la Science ) 1899年 ルイ=エルネスト・バリアス オルセー美術館蔵
『科学の前にヴェールを脱ぐ自然』 ルイ=エルネスト・バリアス

引用元:下から見た図 emilee rader CC-BY-SA-2.0

胸のスカラベがよく見えますね。

一瞬、「なぜスカラベ?」「なぜ古代エジプト神話に登場するスカラベが?」と思いませんでした?

古代エジプトの神話ではスカラベは、太陽(丸めたフンが太陽のかたちに似ている)、引いては再生を意味する「聖なる甲虫」でした。

「神秘なる自然」に見立てられたのは、古代エジプト神話の女神イシス。

Wikipedia( Veil of Isis )によると、ヴェールに包まれたイシスは、「自然の秘密へのアクセスの不可能さを表す比喩および寓意的な 芸術的モチーフ」(The veil of Isis is a metaphor and allegorical artistic motif representing the inaccessibility of nature’s secrets, personified as the goddess Isis shrouded by a veil or mantle. )とのことです。

それでは、ヴェールを脱ぐイシスは、科学によって自然がついにその秘密をあらわにした、ということでしょうか。

それとも、ヴェールの下から覗く顔はミステリアスなまま。人類の叡智、科学を以てしても、解明しきれない自然というものを象徴している?

Wikipedia の Nature Unveiling Herself Before Science から一部引用させていただきます。

According to historians of science Lorraine Daston and Peter Galison, the sculpture “blends the ancient trope of the veil of Isis, interpreted as nature’s desire to hide her secrets, with the modern fantasy of (female) nature willingly revealing herself to the (male) scientist, without violence or artifice.”[1] According to historian of science Carolyn Merchant, the sculpture is emblematic of transformation of conceptions of nature that came with the Scientific Revolution: “From an active teacher and parent, she [Nature] has become a mindless, submissive body.”[2] In a similar vein, biologist and essayist Gerald Weissmann has noted the similarity between Nature’s pose in Barrias’ sculpture and that of the central figure in the 1876 painting Dr. Pinel Unchaining the Mad by Tony Robert-Fleury, a released inmate from an insane asylum who has “the detached look of the very lost.”[3]

https://en.wikipedia.org/wiki/Nature_Unveiling_Herself_Before_Science

Google翻訳:科学史家のロレイン・ダストンとピーター・ガリソンによると、この彫刻は「秘密を隠したい自然の欲求として解釈されるイシスのベールという古代の比喩と、(女性の)自然が(男性の)自然に進んで姿を現すという現代のファンタジーを融合させたものである」という。暴力も策略もない科学者だ。」[1] 科学史家のキャロリン・マーチャントによれば、この彫刻は科学革命に伴う自然概念の変容を象徴しており、「熱心な教師や親から、彼女[自然]は思慮のない従順な体になった」という。[2] 同様の趣旨で、生物学者でエッセイストのジェラルド・ワイズマンは、バリアスの彫刻における自然のポーズと、刑務所から釈放された受刑者トニー・ロバート=フルーリーによる1876年の絵画『狂気を解き放つピネル博士』の中心人物のポーズとの類似性に注目した。 「まさに失われた者のような孤立した表情」を持つ精神病院。[3] )

本文内に「イシスのヴェール」( Veil of Isis )という言葉が出てきましたので、再び引用します。

Illustrations of Isis with her veil being lifted were popular beginning in the late 17th century, often as allegorical representations of Enlightenment progress uncovering nature’s mysteries. By the end of the 18th century, the unveiling of Isis was invoked as a metaphor for the revelation of awe-inspiring truths beyond scientific discovery. The 1877 book Isis Unveiled influenced Western esotericism and Neopagan movements, promulgating the metaphor to modern magical and spiritual practices.

https://en.wikipedia.org/wiki/Veil_of_Isis

Google翻訳:ベールを脱いだイシスのイラストは 17 世紀後半から人気があり、多くの場合、自然の神秘を明らかにする啓蒙の進歩を寓意的に表現しました。 18 世紀の終わりまでに、イシスの除幕は、科学的発見を超えた畏怖の念を抱かせる真実の啓示の比喩として引用されるようになりました。 1877 年の本『イシスのベールが剥奪された』は、西洋の秘教主義と新異教運動に影響を与え、現代の魔術的および精神的実践 への隠喩を広めました。)

Another interpretation of Isis’s veil emerged in the late 18th century, in keeping with the Romantic movement that was developing at the time, in which nature constitutes an awe-inspiring mystery rather than prosaic knowledge.[11]

https://en.wikipedia.org/wiki/Veil_of_Isis

Google翻訳:イシスのベールの別の解釈は 18 世紀後半に現れました。これは、自然が凡庸な知識ではなく畏怖の念を抱かせる神秘を構成する、当時発展していたロマン主義運動に沿ったものでした。[11])

古くからある「イシスのヴェール」という寓話的モチーフが18世紀後半に至るまでに、形を変えて解釈されているようです。

ヴェールの脱ぎ方だって、チラッと中を見せるようにするのか、はたまたガバっと豪快に?持ち上げるのかでは観る方の受け取り方も違いますよね。

『新生オルセー美術館』(新潮社)

現在印象派の巨匠として知られているモネやルノワールが活躍した時代。

保守的だった彫刻の世界には、それほど特筆すべき作品は出てきていなかったようです。

それが、1899年、ようやくちょっと変わった?カラフルな、バリアスの彫刻が登場しました。

バリアスの彫刻は、胸元のスカラベや色のついた石を衣に使って華やかに仕上げています。これは色大理石を使った古代エジプト彫刻の影響や、ギリシャ・ローマの古代彫刻に彩色がされていたと判明したことなどが大きい。

高橋明也(著). 2017. 『新生オルセー美術館』. 新潮社. p.103.

そう、白一色に思われていた古代の彫刻。実は結構カラフルに彩色がされていたのです。

エーゲ海をバックに白い彫刻も良いですが、当時の人びとが当時の最良のセンスで色着けした、その姿を見てみたいですね。

別館( hanna and books )の記事極彩色の古代ギリシャ『古代ギリシャのリアル』

新生オルセー美術館

新潮社の『新生オルセー美術館』、薄いながらも結構多くの収蔵品が掲載されています。

残念ながら、バリアスのこの作品については多く説明されてはいません。

しかし、旅行にも持って行けるサイズという点ではいいと思います。

載っていない収蔵品ももちろんありますが、大雑把に網羅するという目的ならこれで足りるかな。

バリアスの彫刻を観たとき、タイトルがよくわからず、「綺麗な彫刻だなあ」くらいしか思いませんでした。

後になってタイトルを知り、女性がなぜヴェールを脱いでいるのか、なんとなーくそのイミがわかった気がしました(^^;

でも、それだけ。細かいところまではわかりません。

かつて、「先入観ナシで直感的に絵(彫刻)を見る。初めての出会いを大切に」なんて思っていたこともありましたが、予備知識無しでは外国の寓意モノはわかりません。

今までぼーっと見てた、ってことは、その意味するところに気付かず、結構損をしてたんじゃないか。

事前の予習、勉強って大事だなーと改めて思います。

同じオルセー美術館に、オーギュスト・クレサンジェの『蛇に噛まれた女』もあります。

当時の私にはこちらの方がインパクトありました。

訪問される際にはこちらも観てくださいね。美しいです。

ルイ=エルネスト・バリアス( Louis-Ernest Barrias, 1841年4月13日-1905年2月4日)

ルイ=エルネスト・バリアス 1904年より前
ルイ=エルネスト・バリアス 1904年より前

引用元:ルイ=エルネスト・バリアス

パリで生まれ、パリで亡くなった、フランスの彫刻家バリアス。

パリのオペラ座、シャンゼリゼにあるオテル・ドゥ・ラ・パイヴァ(パイヴァ候爵夫人の館)の装飾にも携わりました。

同じ19世紀の画家による作品。ベックリンはスイス、ミレーは英国出身です。

忘れられない、アルノルト・ベックリンの『見棄てられたヴィーナス』

19世紀の画家が描くジャンヌ・ダルクの甲冑と1429年時の武具の値段

ルノワールのモデル、リーズ・トレオの姿『夏』『日傘のリーズ』

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