フランチェスコ・アイエツの『水浴のスザンナ』とドミニク・アングルの『グランド・オダリスク』

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19世紀イタリアの画家フランチェスコ・アイエツの『水浴のスザンナ』と『オダリスク』。

アイエツに影響を与えたドミニク・アングルの『グランド・オダリスク』も掲載しました。

『水浴のスザンナ』 1859年 フランチェスコ・アイエツ ブレラ美術館蔵
『水浴のスザンナ』 1859年 フランチェスコ・アイエツ ブレラ美術館蔵

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目次

『水浴のスザンナ』( Susanna at her Bath )

『水浴のスザンナ』 1859年 フランチェスコ・アイエツ ブレラ美術館蔵
『水浴のスザンナ』 1859年 フランチェスコ・アイエツ ブレラ美術館蔵

引用元:『水浴のスザンナ』 ブレラ美術館蔵

『水浴のスザンナ』 1850年 フランチェスコ・アイエツ ナショナル・ギャラリー蔵 (ロンドン)
『水浴のスザンナ』 1850年 フランチェスコ・アイエツ ナショナル・ギャラリー蔵 (ロンドン)

引用元:『水浴のスザンナ』 ナショナル・ギャラリー蔵 (ロンドン)

フランチェスコ・アイエツ( Francesco Hayez, 1791年2月10日-1882年2月11日)

19世紀イタリアの画家、フランチェスコ・アイエツ。

アイエツはロマン主義の画家で、代表作に『水浴のスザンナ』『接吻』『瞑想』があります。

『水浴のスザンナ』の絵にはだいたい彼女に言い寄る「老人たち」がいる

「ダニエル書」のなかで、スザンナというヘブライ人の人妻が水浴を終えたところに、2人の好色な長老たちがやってきます。

そして関係を迫り、「もし拒否すれば、お前が庭で青年と密会していたと告発するぞ」と言って彼女を脅しました。

スザンナはこれを拒絶。

彼女は逮捕され、あわや死罪に…というところを、ダニエルという青年によって救われます。

老人たちの卑劣な嘘が暴かれ、最後は「美徳」が勝つ、という物語です。

絵に描かれるときは大抵「好色爺さん」と一緒になっていることが多いのですが、アイエツの絵にはこの爺さんたちがいません。

水浴場面でも暗がりに潜む爺さんがいることがあり、いないと単なる美しいヌード、裸婦像に見えてしまいます。

『スザンナと長老たち』 1610年頃 アルテミジア・ジェンティレスキ

『スザンナと長老たち』 1610年頃 アルテミジア・ジェンティレスキ ヴァイセンシュタイン城
『スザンナと長老たち』 1610年頃 アルテミジア・ジェンティレスキ ヴァイセンシュタイン城

引用元:『スザンナと長老たち』

『スザンナと長老たち』 1650年頃 グエルチーノ

『スザンナと長老たち』 1650年頃 グエルチーノ パルマ国立美術館蔵
『スザンナと長老たち』 1650年頃 グエルチーノ パルマ国立美術館蔵

引用元:『スザンナと長老たち』

『スザンナと長老たち』 1607年 ピーテル・パウル・ルーベンス

『スザンナと長老たち』 1607年 ルーベンス ボルケーゼ美術館蔵
『スザンナと長老たち』 1607年 ルーベンス ボルケーゼ美術館蔵

引用元:『スザンナと長老たち』

『スザンナと長老たち』 1655年 ヘリット・ファン・ホントホルスト

『スザンナと長老たち』 1655年 ヘリット・ファン・ホントホルスト ボルケーゼ美術館蔵
『スザンナと長老たち』 1655年 ヘリット・ファン・ホントホルスト ボルケーゼ美術館蔵

引用元:『スザンナと長老たち』 Sonse CC-BY-2.0

女性画家アルテミジア・ジェンティレスキのスザンナは嫌悪に顔をしかめ、グエルチーノの絵ではスザンナは手をあげて老人たちの言葉を「拒絶」しています。

色ボケ老人たちはどれも醜く描かれていますね。

アイエツ、1810年代のローマでドミニク・アングルに会う

ヴェネツィア生まれのアイエツは、1810年から1814年にかけてローマで修行中でした。

同じ頃、フランスの新古典主義の画家ドミニク・アングルもローマに留学していました。

アングルは、1801年、『アキレウスのもとにやってきたアガメムノンの使者たち』で、当時の若手画家の登竜門であるローマ賞を受賞。

その後数年を経て、ローマへ留学したのです。

アングルと出逢ったアイエツは彼から大きな影響を受けることになりました。

画家ジャン=オーギュスト=ドミニク・アングル( Jean-Auguste-Dominique Ingres, 1780年8月29日-1867年1月14日)

歴史画で知られるダヴィッドに師事していたアングルは1806年にイタリアを訪れ、ルネサンスの巨匠たちの作品に触れます。

アングルは1820年までローマに、その後フィレンツェに移り1824年まで活動し、ラファエロやミケランジェロなどを研究しました。

イタリアに着いたとき、彼は

「私はだまされていた。最初から勉強しなおさないと」

といったそうです。

本物のラファエロを目にした彼は、アカデミックな美学の基準よりも、自分の目で見たものを信じ、手本にしようとします。(参考:『鑑賞のための西洋美術入門』 視覚デザイン研究所. p.109.)

『ナポレオン一世の戴冠式と皇妃ジョゼフィーヌの戴冠』 1805年-1807年 J.L.ダヴィッド

『ナポレオン一世の戴冠式と皇妃ジョゼフィーヌの戴冠』 1805年-1807年 J.L.ダヴィッド ルーヴル美術館蔵
『ナポレオン一世の戴冠式と皇妃ジョゼフィーヌの戴冠』 1805年-1807年 J.L.ダヴィッド ルーヴル美術館蔵

引用元:『ナポレオン一世の戴冠式と皇妃ジョゼフィーヌの戴冠』

『アキレウスのもとにやってきたアガメムノンの使者たち』 1801年 ドミニク・アングル

『アキレウスのもとにやってきたアガメムノンの使者たち』 1801年 ドミニク・アングル エコール・デ・ボザール蔵
『アキレウスのもとにやってきたアガメムノンの使者たち』 1801年 ドミニク・アングル エコール・デ・ボザール蔵

引用元:『アキレウスのもとにやってきたアガメムノンの使者たち』

ルネサンスの巨匠ラファエロ『システィーナの聖母』とアングルの『ルイ13世の誓願』 

『システィーナの聖母』 1513年-1514年 ラファエロ アルテ・マイスター絵画館蔵
『システィーナの聖母』 1513年-1514年 ラファエロ アルテ・マイスター絵画館蔵

引用元:『システィーナの聖母』

『ルイ13世の誓願』 1820年-1824年 ドミニク・アングル モントーバン大聖堂
『ルイ13世の誓願』 1820年-1824年 ドミニク・アングル モントーバン大聖堂

引用元:『ルイ13世の誓願』

アングルは1824年、長らく子供を授からなかったルイ13世が聖母マリアに誓いを立て、そしてついに待望の男児、後のルイ14世を授かる、という場面を表す絵『ルイ13世の誓願』をサロンに出品します。

この絵は大成功を収め、アングルはロマン派に対抗する新古典主義の「指導者」として迎えられました。

同じ年の1824年、ロマン主義の画家ウジェーヌ・ドラクロワが『キオス島の虐殺』を完成させ、サロンに出品しました。

アングルのライバル・ドラクロワの『キオス島の虐殺』 

『キオス島の虐殺』 1824年 ドラクロワ ルーヴル美術館蔵
『キオス島の虐殺』 1824年 ドラクロワ ルーヴル美術館蔵

引用元:『キオス島の虐殺』

ドラクロワの特徴はダイナミックなタッチとルーベンスやヴェネツィア派、イギリスの風景画家から学んだ強烈な色彩です。これはデッサンを基礎とする構図に色を重ねる新古典主義の厳密な描き方とは対照的なものです。

『鑑賞のための西洋美術入門』. 視覚デザイン研究所. p.114.

『グランド・オダリスク』(『横たわるオダリスク』 Grande Odalisque ) 1814年 ドミニク・アングル

『グランド・オダリスク』(「横たわるオダリスク」) 1814年 ドミニク・アングル ルーヴル美術館蔵
『グランド・オダリスク』(「横たわるオダリスク」) 1814年 ドミニク・アングル ルーヴル美術館蔵

引用元:グランド・オダリスク』

アングルは、色彩よりデッサンを重視し、安定した構図を好んだ点では新古典主義と共通していました。しかし、オリエンタルな主題を好んだ点ではロマン主義に近い性質も持っていたのです。

『鑑賞のための西洋美術入門』. 視覚デザイン研究所. p.107.

『グランド・オダリスク』は、留学中のアングルがフランスに送った絵です。

オダリスクとは、オスマン帝国の皇帝に仕える後宮(ハーレム)の女性のこと。

まず、この美しいなだらかな曲線、そして肌のリアルな質感に目が行きますね。

次に、妙な違和感が…。

発表した当時、この絵は「デッサンが狂っている」と酷評されました。

解剖学的に不正確、つまり「脊椎が3つ多い」のです。

腕も長い。

また、実際にこのようなポーズを取るのは困難です。

しかし、アングルは、

正確な描写よりも、自身の美意識を優先し、女性の身体の丸みを強調するために、モデルの背中を実際よりも長く描いていたのだった。

高階秀爾(著). 『誰も知らない「名画の見方」』. 小学館101ビジュアル文庫. p.122.

アングルは新古典主義の規範に縛られるのではなく、自分の信じる理想の美を追求したのです。

アイエツがアングルと出逢った頃、アングルはこの『グランド・オダリスク』を製作中でした。

『誘う絵』で挙げられたアイエツの『水浴のスザンナ』(1850年)について、著者・平松洋氏は、

本作も全く同じく、背中を向けて座り、振り向いて鑑賞者と目を合わせています。つまりアイエツは、後宮(ハレム)に仕える愛妾のポーズをスザンナに転用していたわけで、多分、当初から誘惑者としてのスザンナを描こうとしていたのかもしれません。 

平松洋(著). 2019-1-15. 『誘う絵』. ビジュアルだいわ文庫. p.226.

と仰っていますが、『スザンナ』の眼差しは紛れもなく誘惑者のものに見えます。

アングルの影響を受けた画家はたくさんいますが、アイエツもそのひとりでした。

以下は彼の『オダリスク』です。

アイエツの『オダリスク』

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『横たわるオダリスク』 1839年 フランチェスコ・アイエツ 個人蔵

引用元:『横たわるオダリスク』 1839年

『本を読むオダリスク』 1866年 フランチェスコ・アイエツ カルロッタ邸、トレメッツォ
『本を読むオダリスク』 1866年 フランチェスコ・アイエツ カルロッタ邸、トレメッツォ

引用元:『本を読むオダリスク』 1866年

『オダリスク』 1867年 フランチェスコ・アイエツ ブレラ美術館蔵
『オダリスク』 1867年 フランチェスコ・アイエツ ブレラ美術館蔵

引用元:『オダリスク』 1867年

主な参考文献
  • 『鑑賞のための西洋美術入門』. 視覚デザイン研究所.
  • 高階秀爾(著). 『誰も知らない「名画の見方」』. 小学館101ビジュアル文庫.
  • 平松洋(著). 2019-1-15. 『誘う絵』. ビジュアルだいわ文庫.
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コメント

コメント一覧 (12件)

  • こんばんはー。
    解剖学的には不正確でも、「この方が美しいんだ」と信じて作品にでき、不自然さすら美にできる…。天才ってスゴイですよね。
    しゅん様が仰る通り、お肌も、そして布地なんかも美しい。
    制作風景を覗いてみたいひとの一人です。
    今回も見ていただいて有難うございました。

  • こんにちはー。
    ドミニク・アングルの『グランド・オダリスク』は、有名なんですね。
    これも『美の巨人たち』で得た知識ですが、アングルは自分の美意識に絶対の自信があったんですね。
    ハンナさんの記事で、アングルがただの自信家ではないことを勉強出来ました!
    でも、どう描けば、あんな透き通ったような肌を再現できるんでしょうね。
    すごいと思います。

  • パンダさん
    今回も見ていただいて有難うございます。
    そうなんですよね。お肌がね、綺麗なんですよね。この世のものとは思えないくらい。
    アングルの『泉』『浴女』なんかも美肌ですよね。
    アングルが『オダリスク』で自分の美意識を追求し、その時は批判されても、後世、絵画史に残る名作になる。スゴイですよね。パンダさんもそんなところに共感されたのでしょうか。私はパンダさんの作品をいつもとても楽しみにしております。

  • ハンナさん、こんばんは。
    絵画の中の女性は、みなさんお肌が綺麗で羨ましいですヽ(´ー`)
    アングルが「横たわるオダリスク」で述べた言葉が良いですね〜。写真に通じるところがあって共感してしまいます。

  • のんちゃん様
    コメント有難うございます。
    ドラクロワの画力のなせる業でしょうかね。
    絵も本も、後になって見返すと、また新たな発見や思いが出て来ますよね。きっと私達が日々進化しているからなのでしょう。
    そう思うとなかなか本て処分出来なくて…。

  • yoro-schon様
    今日も有難うございます。
    グエルチーノのスザンナ、手が老人たちを完全拒絶していますよね。拒絶一つ取っても、本当にいろいろな表現があるものだと思います。
    ダヴィッドの絵、ナポレオン・ボナパルトがカッコ良すぎて逆に嘘っぽいです(笑)。

  • こんばんは。とても懐かしく見入ってしまいました。こんなに沢山魅了される絵があるのになぜかキオス島の虐殺 の右側で涙ぐむおばあさんがとても印象に残っており(;’∀’)。一体自分の幼少期はどんな思考だった?と
    考えてます。。ありがとうございました🙏

  • ボナパルトのダヴィッド作品はあまりにも有名で存じていましたが。横たわるオダリスクのアングル作にはちょっと共感できないかも。スザンナと長老たちのグエルチーノ作の拒絶しているシーンがいいですね。

  • 蝶々様
    いつもお声をかけてくださって有難うございます。
    蝶々様のご期待に沿えたらとても嬉しいのですが。
    (何故か今スターが反応しないので、後程改めて付けさせていただきます)。

  • Schun様
    コメント有難うございます。
    確かに。同じお題、同じ構図でもこんなにひとによって解釈が違うのかと思いますよねえ。
    アイエツがアングルの絵にヒントを得てこの聖書に登場する女性を描いたというのが興味深いです。

  • おはようございます😆✨✨
    更新されるの楽しみに待ってました😁🎶

  • 同じ題材でも感じが変わる。構図が変わるだけでこんなにも絵の雰囲気が変わるんだなぁ〜って気づかされました。人の発想って素晴らしいですねー(笑)

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