エリザベス1世の肖像画に描かれた「ペリカン」「フェニックス」「蛇」

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今回は、数多くあるエリザベス1世の肖像画から6点を選んでみました。

『ペリカン・ポートレート』 1573年頃 ニコラス・ヒリヤード ウォーカー・アート・ギャラリー蔵
『ペリカン・ポートレート』 1573年頃 ニコラス・ヒリヤード ウォーカー・アート・ギャラリー蔵
目次

イングランド女王エリザベス1世の肖像画

Pelican Portrait / 「ペリカン・ポートレート」(1575年頃)

Portrait of Queen Elizabeth I, Nicholas Hilliard Attributed to, 1575 about, WAG 2994, Painting, Panel; Oil, Canvas/support: 78.7 cm x 61 cm; Framed: 89.6 x 72.2 x 6.6cm, Presented to the Walker Art Gallery by Alderman E Peter Voues in 1945, Permanent collection, On display: Walker Art Gallery, Room 01, 1b, The mother pelican on her brooch is a traditional Christian symbol of Christ's sacrifice、『ペリカン・ポートレート』 1575年頃 ニコラス・ヒリヤードに帰属 ウォーカー・アート・ギャラリー蔵
『ペリカン・ポートレート』 (Portrait of Queen Elizabeth I) 1575年頃 ニコラス・ヒリヤードに帰属 ウォーカー・アート・ギャラリー蔵

引用元:Portrait of Queen Elizabeth I

ウォーカー・アート・ギャラリーPortrait of Queen Elizabeth I

『ペリカン・ポートレート』 1573年頃 ニコラス・ヒリヤード ウォーカー・アート・ギャラリー蔵
『ペリカン・ポートレート』 ウォーカー・アート・ギャラリー蔵

引用元:エリザベス1世『ペリカン・ポートレート

『ペリカン・ポートレート』 1573年頃 ニコラス・ヒリヤード ウォーカー・アート・ギャラリー蔵
『ペリカン・ポートレート』 ウォーカー・アート・ギャラリー蔵

引用元:エリザベス1世『ペリカン・ポートレート

女王の胸に輝く「ペリカン」のブローチ。

3匹の雛たちに、自分の胸をつついて流した血を与えているところです。

これは自らを犠牲にするキリストを表していて、「十字架に掛かったキリストの象徴であると同時に慈愛の象徴」だということです。

女王が身に着け、手で指し示すことで、「国と結婚し、国に身を捧げた自分」を表しているのですね。

くちばしで胸をつつき、3匹の雛たちにその血を与える白いペリカン。国家に身を捧げた自分を象徴するこのブローチをご覧、と言わんばかりに、女王が左手でペリカンを示している。キリストの磔刑図では、十字架のてっぺんにこのブローチと同様の絵が描かれることもある。

木村泰司(監修). 『名画の美女 巨匠たちが描いた絶世の美女50人』. 洋泉社. p.80.

女王の顔には陰影がありません。

白い肌は美人の条件でしたが、能面のような印象で、のっぺりした感じがしますね。

40代になったあたりから、エリザベス女王は、肖像画のなかの自分の顔に陰影をつけさせませんでした。

「女王が年を取っていくと、国民が不安になるから」という理由で、顔のシワを描くことを禁じたのです。 

首元は、首のシワを隠すようなレースのラフ。

肩や袖に白くぷくぷくしたものが見えていますが、これは衣装に切り込みの間から、下に着たリネンなどを引っ張り出して見せているのです。

顔ののっぺり感とは対照的に、ルビーなどの宝石がふんだんに縫い付けられた衣装はとても豪華で目が眩みそうです。

使われている真珠はエリザベスの処女性を表現し、「国家・国民と結婚し独身を通した」処女王・エリザベスを示しています。

ラフ、カートウィール・ラフ、リバト、エリザベス・カラー、メディチ・カラー、レタス襟など、16世紀から17世紀の襟のいろいろ

貴婦人の首元に咲く車輪のようなラフの花

Phoenix portrait / 「フェニックス・ポートレート』(1575年頃)

Queen Elizabeth I, by Nicholas Hilliard, oil on panel, circa 1575, 31 in. x 24 in. (787 mm x 610 mm), Purchased, 1865, Primary Collection, NPG 190, National Portrait Gallery, 'Phoenix' portrait,『フェニックス・ポートレート』 1575年頃 ニコラス・ヒリヤード ナショナル・ポートレート・ギャラリー蔵
『フェニックス・ポートレート』 (Queen Elizabeth I) 1575年頃 ニコラス・ヒリヤード ナショナル・ポートレート・ギャラリー蔵

引用元:Elizabeth1 Phoenix

ナショナル・ポートレート・ギャラリーQueen Elizabeth I

こちらは「再生」「純潔」を象徴する、「伝説の鳥」フェニックスです。

真珠や宝石、まばゆい金糸で、フェニックスが何処にあるのか一瞬わからない程ですね。

エリザベスが手にしている赤薔薇は、エリザベスの出身であるテューダー家のシンボルです。

Queen Elizabeth I, by Nicholas Hilliard, oil on panel, circa 1575, 31 in. x 24 in. (787 mm x 610 mm), Purchased, 1865, Primary Collection, NPG 190, National Portrait Gallery, 'Phoenix' portrait,『フェニックス・ポートレート』 1575年頃 ニコラス・ヒリヤード ナショナル・ポートレート・ギャラリー蔵
『フェニックス・ポートレート』 (Queen Elizabeth I) ナショナル・ポートレート・ギャラリー蔵

引用元:Elizabeth1 Phoenix

Queen Elizabeth I, by Nicholas Hilliard, oil on panel, circa 1575, 31 in. x 24 in. (787 mm x 610 mm), Purchased, 1865, Primary Collection, NPG 190, National Portrait Gallery, 'Phoenix' portrait,『フェニックス・ポートレート』 1575年頃 ニコラス・ヒリヤード ナショナル・ポートレート・ギャラリー蔵
『フェニックス・ポートレート』 (Queen Elizabeth I) ナショナル・ポートレート・ギャラリー蔵

引用元:Elizabeth1 Phoenix

Darnley Portrait / 「ダーンリー・ポートレート」(1575年頃)

Queen Elizabeth I, by Unknown continental artist, oil on panel, circa 1575, 44 1/2 in. x 31 in. (1130 mm x 787 mm), Purchased, 1925, Primary Collection, NPG 2082, National Portrait Gallery, 'Darnley portrait', テューダー朝第5代の君主エリザベス1世(1533年9月7日 - 1603年4月3日) 1575年頃の肖像画 ナショナル・ポートレート・ギャラリー蔵
1575年頃の肖像画 (‘Darnley portrait’) ナショナル・ポートレート・ギャラリー蔵

引用元:Darnley Portrait

ナショナル・ポートレート・ギャラリーQueen Elizabeth I

女王41歳頃の肖像画。

この姿が後の肖像画のお手本になりました。

もうシワは描かれず、絵の中の女王は年を取りません。

若く美しい処女王のままです。

自慢だった手も変わらず白く長く、美しいです。

エリザベスはこのように様々なモチーフを使って、自分のイメージを演出、自分を神格化して行きました。

Rainbow Portrait / 「虹の肖像」(1600 – 1602年頃)

『虹の肖像』 (Rainbow Portrait) 1600 - 1602年頃 アイザック・オリヴァーに帰属 ハットフィールド・ハウス蔵
『虹の肖像』 (Rainbow Portrait) 1600 – 1602年頃 アイザック・オリヴァーに帰属 ハットフィールド・ハウス蔵

引用元:『虹の肖像』

年を取らないことになっている女王の、 『虹の肖像 レインボウ・ポートレート』です。

オレンジ色のガウンには眼と耳、左腕には王冠をかぶり赤いハートをくわえる蛇が施されている。赤いハートは正義を司る者の言葉、蛇は慎重のシンボル。無数の眼で世界のすべてを見、無数の耳ですべてを聞く女王が表されている。虹をもつ右手の上には「太陽なくして虹はない」と記され、太陽は女王、虹は平和、右衿上のガントレットは忠誠の象徴とされる。

石井美樹子(著). 『イギリス王室1000年史』. 新人物往来社. p.95.
『虹の肖像』 (Rainbow Portrait) 1600 - 1602年頃 アイザック・オリヴァーに帰属 ハットフィールド・ハウス蔵
『虹の肖像』 (Rainbow Portrait) ハットフィールド・ハウス蔵

引用元:袖の蛇

右の衿に甲冑っぽい「手袋」がありますが、これが「ガントレット(Gauntlet)です。

『虹の肖像』 (Rainbow Portrait) 1600 - 1602年頃 アイザック・オリヴァーに帰属 ハットフィールド・ハウス蔵
『虹の肖像』 (Rainbow Portrait) ハットフィールド・ハウス蔵

引用元:『虹の肖像』

王女時代の肖像画(1546年頃)

Attributed to William Scrots (active 1537-53), Elizabeth I when a Princess c.1546, Oil on panel | 108.5 x 81.8 cm (support, canvas/panel/stretcher external) | RCIN 404444, Queen's Drawing Room, Windsor Castle, the Royal Collection, 王女時代のイングランド女王エリザベス1世 1546年頃 William Scrotsに帰属 ロイヤル・コレクション蔵
王女時代のイングランド女王エリザベス1世 (Elizabeth I when a Princess c.1546) 1546年頃 William Scrotsに帰属 ロイヤル・コレクション蔵

引用元:Elizabeth I when a Princess

ロイヤル・コレクションElizabeth I when a Princess c.1546

プロテスタントらしい、控えめなドレスですが、非常に手の込んだ装飾です。

胸部を美しく見せるため、襟元は四角く大胆に開いている。腰を細く見せるコルセット、下に着た刺繍スカートをよく見せるAラインのドレスも、16世紀半ばのテューダー朝期に流行したデザイン。

木村泰司(監修). 『名画の美女 巨匠たちが描いた絶世の美女50人』. 洋泉社. p.78.

エリザベスが被っている帽子は、彼女の生母であるアン・ブーリンがフランスからイングランド宮廷に持ち込み、流行させたものです。

下の肖像画の帽子とよく似ていますね。

このような帽子は髪の毛を真ん中で分けてかぶります。

Anne Boleyn by Unknown English artist, oil on panel, late 16th century, 543 mm x 416 mm, Primary Collection, NPG 668, National Portrait Gallery, Anne Boleyn (circa 1500-1536), Queen of England (1533-1536)., アン・ブーリン(1501年頃 - 1536年5月19日) 16世紀後半 ナショナル・ポートレート・ギャラリー蔵
アン・ブーリン(Anne Boleyn) 16世紀後半 ナショナル・ポートレート・ギャラリー蔵

引用元:アン・ブーリン

ナショナル・ポートレート・ギャラリーAnne Boleyn

エリザベス王女の髪もきちんと真ん中分けされていますよね。

即位時の衣装(1600年頃)

Queen Elizabeth I, by Unknown English artist, oil on panel, circa 1600, 50 1/8 in. x 39 1/4 in. (1273 mm x 997 mm), Purchased, 1978, Primary Collection, NPG 5175, National Portrait Gallery, 即位の際のエリザベスを描いた肖像画 1600年頃 ナショナル・ポートレート・ギャラリー蔵
即位の際のエリザベスを描いた肖像画 (Queen Elizabeth I) 1600年頃 ナショナル・ポートレート・ギャラリー蔵

引用元:即位の際のエリザベスを描いた肖像画

ナショナル・ポートレート・ギャラリーQueen Elizabeth I

エリザベスは25歳で即位しました。

王杓、宝珠を手にし、白貂(オコジョ)の毛皮のガウンを纏っているこの絵は、失われた1559年の原画の複製のようです。

あしらわれている花は、テューダーを象徴する薔薇です。

「蛇が塗りつぶされた」肖像画

エリザベス1世の『虹の肖像』のなかには「蛇」が描かれていますが、描いた後で塗りつぶされた絵もありました。

女王の右手に描かれていたようです。

Queen Elizabeth I, by Unknown artist, oil on panel, 1580s-1590s, 26 1/4 in. x 19 1/4 in. (666 mm x 488 mm), Given by Mines Royal, Mineral and Battery Societies, 1865, Primary Collection, NPG 200, National Portrait Gallery, エリザベス1世 1580年代 - 1590年代 画家不明 ナショナル・ポートレート・ギャラリー蔵
エリザベス1世 (Queen Elizabeth I) 1580年代 – 1590年代 画家不明 ナショナル・ポートレート・ギャラリー蔵

引用元:Elizabeth I Unknown Artist c 1575-80

ナショナル・ポートレート・ギャラリーQueen Elizabeth I

写真をもとに描かれた、ヘビが塗りつぶされる前の姿の再現図。(『16世紀に描かれたエリザベス1世の肖像画に秘められたヘビが姿を現す』より)
写真をもとに描かれた、ヘビが塗りつぶされる前の姿の再現図。(『16世紀に描かれたエリザベス1世の肖像画に秘められたヘビが姿を現す』より)

引用元:16世紀に描かれたエリザベス1世の肖像画に秘められたヘビが姿を現す

16世紀に描かれたエリザベス1世の肖像画に秘められたヘビが姿を現す – GIGAZINE』の記事と画像をお借りしていますが、

ナショナル・ポートレート・ギャラリーの発表によると、ヘビは全体的に黒色で、緑がかった青色のウロコを持っていて、ほぼ確実に写生でなく想像で描かれたものであるとのことです。

ヘビは英知や分別、道理にかなった判断などの象徴として描かれることもありますが、同時にキリスト教ではサタンや原罪への結びつきもあります。このアレゴリーの多義性が、ヘビが肖像画から消されることとなった理由だと考えられるそうです。

また、エリザベス1世の肖像は別の女性の未完成の肖像の上に描かれていて、この女性が誰であるかは不明ですが、女王の肖像画の作者とは別の画家によるものだと考えられるそうです。当時は絵画の素材がリサイクルされることは珍しくなかったとのことで、塗りつぶされた女性に関しては特に深い意味はないようです。 

16世紀に描かれたエリザベス1世の肖像画に秘められたヘビが姿を現す – GIGAZINE 2010年03月05日 14時00分

これに限らず今後の調査で、塗り込められた「過去」が暴かれるということがあるかもしれませんね。

いろいろなものが姿を現すかもしれません。実に楽しみです。

記事によると、叡智の象徴ともされる蛇を塗りつぶしたのは、蛇が持つ悪い意味で取られることを恐れたからのようですね。

蛇がやっつけられている場面といえば、バロックの巨匠カラヴァッジョの絵画を思い起こします。

La Madonna dei Palafrenieri, Merisi Michelangelo detto Caravaggio (Milano 1571 - Porto Ercole 1610), Inventario 110, Datazione 1605, Tipologia pittura, Materia / Tecnica olio su tela, Misure cm 292 x 211, Cornice Cornice ottocentesca, La galleria Borghese, 『蛇の聖母』 1605年 カラヴァッジョ ボルゲーゼ美術館蔵
『蛇の聖母』 (La Madonna dei Palafrenieri) 1605年 カラヴァッジョ ボルゲーゼ美術館蔵

引用元:『蛇の聖母』

ボルゲーゼ美術館La Madonna dei Palafrenieri

蛇が、幼子のイエス・キリストから踏み付けられています。

知恵のシンボルとされる一方、蛇は「異端の象徴」(カトリックから見たプロテスタント)とされ、イエス・キリストが蛇(プロテスタント)をやっつけている場面です。

ボルゲーゼ美術館のコレクション

目利きの枢機卿シピオーネ・ボルゲーゼとボルケーゼ美術館のコレクション

主な参考文献
  • 木村泰司(監修). 『名画の美女 巨匠たちが描いた絶世の美女50人』. 洋泉社.
  • 石井美樹子(著). 『イギリス王室1000年史』. 新人物往来社.
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