フランス王シャルル9世の妃となった神聖ローマ皇帝の娘エリザベート・ドートリッシュの肖像について。
フランソワ・クルーエの描くエリザベートと宝石類の美しさをご覧ください。
『エリザベート・ドートリッシュの肖像』( Élisabeth d’Autriche (1554-1592), reine de France, femme de Charles IX ) 1571年頃 フランソワ・クルーエ ルーヴル美術館蔵
エリザベート・ドートリッシュ(1554年6月5日-1592年1月22日)のドイツ語名は、エリーザベト・フォン・エスターライヒ( Elisabeth von Österreich )と言います。
エリザベートの父親は神聖ローマ皇帝マクシミリアン2世、母親はスペイン王フェリペ2世の妹マリア。
マクシミリアンとマリアの父親は実の兄弟ですから、両親はいとこ同士ということになります。
エリザベートのきょうだいには神聖ローマ皇帝ルドルフ2世、アンナ・フォン・エスターライヒがいます。
父マクシミリアン2世は、次女であるエリザベートをフランス王シャルル9世に、長女のアンナを妻の実家(スペイン王家)に嫁がせます。
姉アンナは伯父フェリペ2世の四番目の妃となりました。
引用元:アナ・デ・アウストリア
本作『エリザベート・ドートリッシュの肖像』は、エリザベートが結婚した1570年の翌年、1571年に描かれました。
宗教問題で揺れるフランスとの友好のため、16歳で結婚したエリザベート。
サン・ドニで行われた戴冠式は非常に豪華なものでしたが、エリザベート自身は内気で引っ込み思案な性格。
フランス語が上手ではなかったこともあり、フランス宮廷に溶け込むのに非常に苦労したそうです。
身を飾る宝石類、指先の表現
髪や衣裳は、真珠やルビーなど無数の宝石で飾られています。
1500年代、宝石をセットした大きなペンダントつきの重厚なネックレスや、大きなペンダント・ブローチを付けた真珠のネックレスが王侯貴族の女性の間に流行しました。
下は同時代のイングランドの「エリザベート」、エリザベス1世の衣裳です。
引用元:『ペリカン・ポートレート』
まばゆい宝石に埋もれて少々見づらいですが、胸には、自らの胸をつついて流した血を雛に与えるペリカンのブローチがあり、女王の手はそれを指しています。
1500年代の衣装について
首元にはラフと呼ばれるひだ飾り、袖の切り込みからは下に着たリネンが引き出されています。
袖口にもレースの飾りがあしらわれていますね。
ほの赤い指先や爪の描写が実に美しく、衣裳の光沢やボディスに施された刺繍も素晴らしいです。
エリザベートの若さ、気品をさらに引き立たせています。
引用元:『エリザベート・ドートリッシュの肖像』 PHGCOM
フランス国立図書館の収蔵品。このスケッチからルーヴル美術館の傑作は描き起こされたそうです
引用元:エリザベート・ドートリッシュ
引用元:エリザベート・ドートリッシュ
ELISABETH D’AUTRICHE, REINE DE FRANCE
引用元:カトリーヌ・ド・メディシスの時祷書より、シャルル9世とエリザベート夫妻
フランソワ・クルーエの最高傑作
フランソワ・クルーエ( François Clouet, 1510年頃-1572年12月22日)
引用元:フランソワ・クルーエ
画家ジャン・クルーエの息子として生まれ、フランスの宮廷画家として活躍。フランス王家や貴族たちの肖像画を描き、また、「ミニアチュール」と呼ばれる細密肖像画も手掛けています。
宝飾品やエリザベートの衣裳の写実性、彼女の顔だち、指先などの繊細な表現から、『エリザベート・ドートリッシュの肖像』はクルーエの最高傑作といわれています。
エリザベートの夫、フランス王シャルル9世( Charles IX de France, 1550年6月27日-1574年5月30日)
引用元:シャルル9世
引用元:シャルル9世
フランソワ・クルーエによる、ヴァロワ朝第12代のフランス王シャルル9世の肖像画です。
下はルーヴル美術館収蔵の、美術史美術館収蔵の肖像画の縮小版。
引用元:シャルル9世
『シャルル9世の肖像』( Charles IX (1550-1574), roi de France. )
展示場所:リシュリュー翼、822展示室
「サン・バルテルミの虐殺」が起きた1572年、エリザベートは女の子を出産しました。
この多くの死者を出した事件で命を縮めたのか、シャルル9世は1574年に病死。
夫の弟であるアンリ3世がエリザベートに求婚しましたが、エリザベートは拒否しました。
エリザベートは幼い娘をフランスに残してオーストリアに帰国します。
その後娘は夭折。アンリ3世は1589年に暗殺され、ヴァロワ朝は断絶。
エリザベートは自身が設立した修道院に入り、1592年1月22日、ウィーンで亡くなりました。37歳でした。
華やかな文化が宮廷に花開く一方、「聖バルテルミーの虐殺」のような血なまぐさい事件が起きたフランス・ヴァロワ朝。佐藤賢一氏の著書で詳しくどうぞ。紙の本も電子書籍もあります。
展示風景
エリザベートの肖像画がある展示室には『シャルル9世の肖像』他、フランソワ・クルーエの父ジャンによる、『フランソワ1世の肖像』も展示されています。
フランソワ1世はシャルル9世のおじい様にあたります。
引用元:フランソワ1世
『フランソワ1世の肖像』( François 1er (1494-1547), roi de France. )
展示場所:リシュリュー翼、822展示室
『ヴァロワ朝』他『カペー朝』『ブルボン朝』も出版されています。こちらは三冊一緒になった電子書籍です。フランスの王朝史に詳しくなりたい方におすすめします。
- 大友義博(監修). 2014-10-12. TJMOOK 『一生に一度は見たい ルーヴル美術館BEST100』. 宝島社.
- 佐藤賢一(著). 『ヴァロワ朝 フランス王朝史2』. 講談社現代新書.
- レスター&オーク(著). 古賀敬子(訳). 『アクセサリーの歴史事典 上』. 八坂書房.
- 徳井淑子(著). 『図説 ヨーロッパ服飾史』. 河出書房新社.
- 菊池良生(著). 『ハプスブルク家の光芒』.ちくま文庫.筑摩書房.
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