ディアナよりニンフに目が行く、ドメニキーノの『狩りをする女神ディアナ』

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ローマのボルケーゼ美術館にある17世紀の絵画、『狩りをするディアナ』。

イタリアの画家ドメニキーノが、ある枢機卿から注文を受けて描いたものですが、この絵に目を付けたシピオーネ・ボルケーゼ枢機卿は横取りを企みます。

『狩りをする女神ディアナ』( Diana and her Nymphs ) 225×320㎝ 1617年 ドメニキーノ ボルケーゼ美術館(ローマ)
『狩りをする女神ディアナ』( Diana and her Nymphs ) 1617年 ドメニキーノ ボルケーゼ美術館(ローマ)
目次

『狩りをする女神ディアナ』( La caccia di Diana ) 1617年 ドメニキーノ ボルケーゼ美術館(ローマ)

『狩りをする女神ディアナ』( Diana and her Nymphs ) 1617年 ドメニキーノ ボルケーゼ美術館(ローマ)
『狩りをする女神ディアナ』 225 cm×320 cm 1617年 ドメニキーノ ボルケーゼ美術館

引用元:『狩りをする女神ディアナ』

この絵には『狩りをする女神ディアナ』( Diana and her Nymphs )、『ディアナの狩猟』( Diana’s Hunt )、『ディアナとニンフ(たち)』 などの邦題が付けられています。

ニンフにばかり目が行く私には、『ディアナとニンフたち』の日本語タイトルが合うように思えます(^^)。

『狩りをする女神ディアナ』( Diana and her Nymphs ) 1617年 ドメニキーノ ボルケーゼ美術館(ローマ)
『狩りをする女神ディアナ』 ドメニキーノ

引用元:『狩りをする女神ディアナ』

三日月の冠をかぶった女神ディアナは一段高い所ですっくと立ち、弓と矢筒を掲げています。

魅力的なニンフたち

『「聖書」と「神話」の象徴図鑑 西洋美術のシンボルを読み解く』の『ディアナとニンフたち』の解説には、

 生命を育む「自然の精」海の精ネレイデス(ネレイスたち)、水(川や泉)の精ナイアデス(ナイアスたち)、山の精オレイアデス(オレイアスたち)、森の精アルセイデス(アルセイスたち)など、いずれも乙女の姿で表される。

 女神ディアナに仕えるニンフたちは純潔を誓っているが、本来、「ニンフ」というギリシア語は花嫁を意味し、命の誕生につながる男女関係を象徴する。その一方で、深い海・山・森の洞窟どうくつに住み、時に男たちを愛の狂気におとしいれることから、冥界を暗示することもある。

岡田温司(監修). 『「聖書」と「神話」の象徴図鑑 西洋美術のシンボルを読み解く』. ナツメ社. p.126.

とあります。

まず、孤高の女神様よりずっと近い距離で、こちらに視線を向けるニンフがとってもコケティッシュ。

彼女の表情だけで、この絵は私のお気に入りとなりました。

この絵を横取りしたくなったシピオーネ・ボルケーゼ枢機卿の気持ちがよく解ります。

『狩りをする女神ディアナ』( Diana and her Nymphs ) 1617年 ドメニキーノ ボルケーゼ美術館(ローマ)
『狩りをする女神ディアナ』 ドメニキーノ

引用元:『狩りをする女神ディアナ』

『狩りをする女神ディアナ』( Diana and her Nymphs ) 1617年 ドメニキーノ ボルケーゼ美術館(ローマ)
『狩りをする女神ディアナ』 ドメニキーノ

引用元:矢を射るニンフたち

向かって左にいるニンフは何をしているかというと、矢を射かけています。

画面右端には竿に付けた鳩がいて、この鳩(的)を射る練習をしているのです。

『狩りをする女神ディアナ』( Diana and her Nymphs ) 1617年 ドメニキーノ ボルケーゼ美術館(ローマ)
『狩りをする女神ディアナ』 ドメニキーノ

引用元:『狩りをする女神ディアナ』

第一の矢は、竿さおに当たり、第二の矢はリボンを切り、第三の矢が鳩を射抜いた。この絵は古代ローマ最大の詩人ヴェルギリウスの『アエネイス』に登場するディアナの狩りのエピソードを描いたものである。

千足伸行(監修). 2014-11-15. 『すぐわかるギリシア・ローマ神話の絵画【改訂版】』. 東京美術. p.32.

木に隠れているふたり

画面右には、木に隠れている人物がふたりいます。

『狩りをする女神ディアナ』( Diana and her Nymphs ) 1617年 ドメニキーノ ボルケーゼ美術館(ローマ)
『狩りをする女神ディアナ』 ドメニキーノ

引用元:『狩りをする女神ディアナ』

ディアナとアクタイオンの話の中で、水浴びするディアナの裸を見てしまったアクタイオンは女神の怒りを買い、牡鹿に変えられて猟犬に食い殺されます。

『すぐわかるギリシア・ローマ神話の絵画』では、「女神の裸体を見て牡鹿に変えられたアクタイオンの話を暗示しているのだろう」とありますので、ニンフたちに気付かれてしまった場合の彼らの末路が想像できてちょっとコワイです。

フォンテーヌブロー派が描くディアナ愛妾ディアーヌ・ド・ポワチエの姿『狩りの女神ディアナ』(フォンテーヌブロー派)

ロココの画家ブーシェによるディアナ森の中で休憩中『ディアナの水浴』(ブーシェ作)解説

シピオーネ・ボルケーゼ枢機卿( Cardinal Scipione Borghese )

1617年頃、画家ドメニキーノは、アルドブランディーニ枢機卿の注文で『狩りをする女神ディアナ』を制作していました。

ピエトロ・アルドブランディーニ(Pietro Aldobrandini)枢機卿の肖像
ピエトロ・アルドブランディーニ(Pietro Aldobrandini)枢機卿の肖像

引用元:ピエトロ・アルドブランディーニ枢機卿

教皇パウルス5世の甥シピオーネ・ボルケーゼ枢機卿はこの絵を気に入り、画家のアトリエにあった時から目をつけていたそうです。

シピオーネ・ボルゲーゼ(1577年9月1日 – 1633年10月2日) 1632年 ベルニーニ作 ボルケーゼ美術館蔵
シピオーネ・ボルゲーゼ(1577年9月1日 – 1633年10月2日) 1632年 ベルニーニ作 ボルケーゼ美術館蔵

引用元:枢機卿シピオーネ・ボルゲーゼ Sailko CC-BY-3.0

ボルケーゼ枢機卿は何度もドメニキーノに譲ってくれるようかけあいましたが、ドメニキーノは首を縦に振りませんでした。

そこで、ボルケーゼ枢機卿は兵をさし向けて絵を強奪させ(!)、ドメニキーノを牢に入れてしまったのです。

とんでもないですね。

気の毒なことに、ドメニキーノは3日間牢に閉じ込められたそうです。

シピオーネ・ボルケーゼ枢機卿、もちろん他にもやってます。

気に入った作品を盗み、または借金のカタに巻き上げる。

さらに、自分のライバルと見なした?アルドブランディーニ家を没落させようと目論む。

とんでもないですね。

でもその審美眼は素晴らしい。

ボルゲーゼ美術館のコレクションであるカラヴァッジォやラファエロの絵画を前に、「これは盗んだものか」「ひとから巻き上げたものか」「きちんと対価を払ったものか」と考えながら観るのもまた一興…?

観る前に少し調べておくと面白いかもしれませんね(^^)。

「ボルケーゼ美術館について詳しく知りたい」と思っても、ルーヴル美術館やロンドンのナショナル・ギャラリーほど本はたくさん出ていないかな、と思います。でも収蔵品はきっと「あ、見たことある」と思うものばかり。シリーズの中ではこの『NHK世界の美術館紀行 3』が一番好きかな。

ボルケーゼ美術館特集目利きの枢機卿シピオーネ・ボルゲーゼとボルケーゼ美術館のコレクション

ドメニキーノ( Domenichino, 1581年10月21日―1641年4月6日)

ドメニキーノの肖像(ドメニコ・ザンピエーリ、1581年-1641年) 1760年
ドメニキーノの肖像(ドメニコ・ザンピエーリ、1581年-1641年) 1760年

引用元:ドメニキーノの肖像

ボローニャ生まれのドメニコ・ザンピエーリ( Domenico Zampieri )は、小柄だったことから「小さいドメニコ」(ドメニキーノ)と呼ばれました。

ローマに出てきたドメニキーノの師はアンニ―バレ・カラッチ。

自画像 1599年頃 アンニーバレ・カラッチ ウフィツィ美術館蔵
自画像 1599年頃 アンニーバレ・カラッチ ウフィツィ美術館蔵

引用元:自画像

カラッチの弟子のひとりで、同じボローニャ出身のグイド・レーニとはライバルでした。

レーニもパウルス5世やシピオーネ・ボルケーゼ枢機卿の注文を受けて活動しています。

師匠アンニ―バレ・カラッチとカラヴァッジォのコラボについてはこちらカラヴァッジォとカラッチのコラボ『聖母被昇天』『聖ペテロの磔刑』『聖パウロの回心』

ドメニキーノの傑作のひとつ『リナルドとアルミーダ』

『リナルドとアルミーダ』( Renaud présentant un miroir à Armide ) 1617年-1621年頃 ドメニキーノ ルーヴル美術館蔵
『リナルドとアルミーダ』 1617年-1621年頃 ドメニキーノ ルーヴル美術館蔵

引用元:『リナルドとアルミーダ』

詩人タッソの『エルサレムの解放』からドメニキーノの『リナルドとアルミーダ』

主な参考文献
  • 『「聖書」と「神話」の象徴図鑑 西洋美術のシンボルを読み解く』 岡田温司(監修) ナツメ社
  • 千足伸行(監修). 2014-11-15. 『すぐわかるギリシア・ローマ神話の絵画【改訂版】』. 東京美術.
  • 『NHK世界の美術館紀行 3』 NHK「世界美術館紀行」取材班編 NHK出版
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