ジョドレル夫妻は、18世紀英国の画壇でライヴァル同士だったレノルズとゲインズバラに結婚肖像画を依頼しました。夫の肖像画をゲインズバラが、妻の肖像画をレノルズが描いています。

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『リチャード・ポール・ジョドレル夫人』 1774-1775年 ジョシュア・レノルズ デトロイト美術館蔵

この絵のタイトルは『リチャード・ポール・ジョドレル夫人』。
モデルとなった女性はヴァ―チュー・ジョドレル( Vertue Jodrell, 1755年5月15日-1806年3月23日)といい、1772年にまたいとこのリチャード・ポール・ジョドレルと結婚しました。
ジョシュア・レノルズ(レイノルズとも表記、Sir Joshua Reynolds, 1723年7月16日-1792年2月23日)

引用元:ジョシュア・レノルズ自画像
ジョシュア・レノルズはイングランド出身の画家です。
若い頃イタリアに渡って修業し、古典芸術とルネサンス芸術を学びました。
1768年にロイヤル・アカデミーを創設し、初代会長に就任します。
「グランド・マナー(荘厳様式)」を重んじ、多くの名士たちの肖像画を描きました。


引用元:『マスター・ヘア』


『リチャード・ポール・ジョドレル夫人』の衣装について
ジョドレル夫人が東洋風に装っているのは, 当時のファッションとレノルズが一般に肖像画を描いた態度と一致している。イギリスのファッションに近東, とくにペルシアの影響が現れるようになったのは1760年頃からであり, 舞台用衣装としてとり入れられた。レノルズは衣服を図象学的な細部とみなしていたのかもしれない。それはモデルが上流階級の劇作家の妻であることを明らかにする助けとして使われている。もしくは, レノルズはこの絵を「ファンシー・ピクチュア」に近づけようとしたのかもしれない。この時期にレノルズによってターバンを巻いた聖チェチリア(ロスアンジェルス・カウンティ美術館)が描かれたが, これはジョドレル夫人のドレスの選択に刺激を受けたのかも知れない。
Lisikewycz, Iva. p.165.『デトロイト美術館展 1990』.
1700年代後半
ジョドレル夫妻の絵が描かれたのは1774年頃で、フランス国王ルイ15世が崩御したのが1774年5月。
次の王としてルイ16世が即位し、妃のマリー・アントワネットが宮廷のトップに立ちました。
ルイ15世やポンパドゥール夫人、マリー・アントワネットが牽引したロココ美術は、やがて新古典主義芸術に移ります。
英国では17世紀初頭から19世紀初頭にかけて、裕福な貴族の子弟が、その学業の終了時に大規模な国外旅行「グランド・ツアー」に出掛けて行きました。
行き先はイタリアやフランスが多く、フランスでは最新のモードやマナーを学んで帰国します。
また、イタリアでルネサンスの芸術に触れた芸術家たちによって、英国にも新古典主義の建物が多く造られるようになりました。
『リチャード・ポール・ジョドレル』 1774年頃 トマス・ゲインズバラ
リチャード・ポール・ジョドレル( Richard Paul Jodrell, 1745年11月13日-1831年1月26日)

英国の古典学者、劇作家。
夫妻は慣例と異なり、自分たちの結婚肖像画をライヴァル同士の画家たちに依頼しました。
夫の肖像画はトマス・ゲインズバラに、妻の肖像画はジョシュア・レノルズに依頼したのです。
トマス・ゲインズバラ ( Thomas Gainsborough, 1727年5月14日-1788年8月2日)

引用元:トマス・ゲインズバラ自画像
18世紀英国の画家、トマス・ゲインズバラ。
ロンドンでフランス出身の版画家に師事。
肖像画家として有名ですが、本人は風景画を好み、「肖像画は生計の為に描いていた」のだそうです。
それでも傑作が多いですよね。

引用元:『青衣の少年』

引用元:『グレアム夫人』

引用元:『デヴォンシャー公爵夫人』
映画『ある公爵夫人の生涯』(2008年)のヒロイン、デヴォンシャー公爵夫人 (ジョージアナ・キャヴェンディッシュ)です。

引用元:『青い服を着た婦人の肖像』
ゲインズバラの作品の中から有名なものを挙げてみましたが、「これ見たことがある」と思われた方、多いのではないでしょうか。
ゲインズバラの画風はフランス・ロココ風。
その評価は、
同時代から今日に至るその評価は, 繊細で洗練された絵筆で顔料によって, また著しく微妙な色彩の選択により, 彼独自の大変個性定期なフランス・ロココ様式を展開させたという点, のみならず, おそらく更に重要な点は, そのモデルに対する彼の一途な個人的な感情に支えられている。
千足伸行(監修・翻訳).『英国国立ヴィクトリア&アルバート美術館展 1990-91 』.p.96.
ゲインズバラの描く愛娘たちの表情はとても繊細です。
デヴォンシャー公爵夫人のこちらに向ける眼差しも非常に魅力的ですよね。
レノルズとゲインズバラと英国絵画の父ホガース
絵画に対する態度の違いから、ゲインズバラとレノルズは対立しました。
ライヴァル状態にあり、最終的には解消しましたが、ゲインズバラはレノルズを評して、「いまいましいが、非常に多才な男だ」と言ったそうです。
レノルズより年上ですが、同時代18世紀の画家にウィリアム・ホガースがいます。
英国における著作権法「ホガース法」を成立させた人物です。

引用元:画家ホガースと愛犬パグ
- デニス・サットン(監修).千足伸行(編集).『デトロイト美術館展 1990』
- 千足伸行(監修・翻訳).『英国国立ヴィクトリア&アルバート美術館展 1990-91 』
コメント
コメント一覧 (2件)
ぴーちゃん様
コメント有難うございました。いつも遅くてすみません。
この二枚についてちょっと探してみたのですが、これ以上のことが書いてある書籍がみつからず、「なぜ違う画家に依頼したのか(しかもライヴァル)」が明確にわかりませんでした。
わかりましたら追記します。
ぴーちゃんさんと同じように、私も写真と肖像画を比較したいと思っていました。
ですので、一個ぴーちゃんさんに見ていただきたいものをひとつ投稿しました。
https://hanna-no-shoko.com/19c-photo-lacontessacastiglione/
お手すき時にでもぜひお願い致します。
関連する本館の記事も少し直しました。
https://hannaandart.com/entry/2020-01-09-215135
またどうぞよろしくお願い致します。
ハンナさん、こんにちは。
夫妻の肖像画を、ライバル同士の画家に依頼したなんて、面白いですね。
お互い、ひいきの画家の好みが違っていたのでしょうか。
ゲインズバラが、最後にレノルズを評価したくだりは…
うんうん、あんたは偉い…と言ってしまいそうになりました。(^-^)
いつも思うのですが、写真が残っていれば、実物と肖像画と比較できるのに…。
肖像画は、得てして美男美女が多いので、比べてみたいです。
今日も、興味深い記事をどうもありがとうございました。